テクノロジー哀歌

水乃流

人工筋肉 マッスルプラス

 人体は、骨だけが支えているわけではない。

 ──骨を支え、さらに動かしているのは筋肉の働きだ。ゆえに、筋肉の衰えはその人間の活動能力低下に直結する。

 だがしかし、現代の科学では老化の速度を遅くすることはできても、老化を止めたり逆転させたりはできない。では、我々は、老化を受け入れ座したまま死を迎えることを良しとするか?

 否!

 あくまで否である!

 年齢を重ねた身体であっても、精神が充分に健康であれば、動き回った方がよい、いや活動すべきなのだ。


 では、どうするか、どうすればよいのか?

 光明は、人工筋肉にある。人工筋肉と言えば、これまでにもアクチュエーターを使った機械式や、ゴム式、空気圧を使った圧力式等々、さまざまな人工筋肉が登場し、人体のサポートをする器具が作られてきた。が、そのどれもが大きく、かつ重量のあるものだった。


 わが社の開発した人工筋肉は、これまでとは違うまったく新しい発想の下に生まれたもの。


 材料は、たんぱく質! つまり実際の筋肉と同じ。

 電極の印刷されたシートを貼った皮膚の上から、特殊な薬液に溶かしたタンパク質を噴霧すると、指定した点と点の間に筋肉繊維が生成される。タンパク質の固着後、電極に微弱な電流を流すことで、筋肉が収縮する。マイクロ筋電計と組み合わせることで、人の動きを人工筋肉がサポートしてくれるのだっ!

 さらに、現在開発中の人工皮膚が完成すれば、誰でもどんな年齢でも、ボディビルダーのような筋骨隆々の肉体を手に入れることができるようになるのだ!


 ……こんな謳い文句で市場に登場した人工筋肉だったが、半年もたたずに世間から姿を消してしまう。本来とは違う使われ方をされたからだ。開発者が予想しなかった使われ方とは──『焼いて食べる』。人工筋肉を鉄板に吹き付け、そのまま焼いて食べることが流行してしまったのだ。薬機法の承認は受けていたものの、食料品としての認可は得ておらず問題となったため、やむなく販売を停止。再販のめども立っていない。人工筋肉の夢は、もろくも崩れ去ったのだった。


 この騒動の背後に、ボディビルダーたちの陰謀があったとかなかったとか。

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