魔女のお仕事

ねこじゃ じぇねこ

第1話

「安らかに眠って」


 彼女の短い一言で、頭の固い誘拐犯は倒れ伏した。

 忠告を無視した時点でこの結果は避けられなかったのだ。悲鳴すらあがらないまま、私たちに牙を剥いた男は絶命した。恐らく痛みも苦しみも一瞬の事だっただろう。彼女が放った鋭利な魔法の糸はそれだけ速やかに敵対勢力を削いでいった。


「それにしても本当にこちらの出番はナシとはね」

「だから言ったでしょう? 奴らの競合相手は人狼の集団。だから、人狼対策に抜かりはないって。それにもちろん、人間の方も。そこに殴り込みに来る魔女なんて想定していなかったのでしょう」


 そして、彼女は私を振り返り、ニヤリと笑った。


「脳筋のあなたは大人しく番犬になっていればよかったのよ」

「ほう、ご主人様に向かって言うじゃないか」

「そう望んだのはあなたでしょう? ……さておき」


 ため息交じりに彼女は周囲を窺い、左手をかざす。

 その薬指に嵌る指輪は、彼女に無限の力を与える秘宝でもあった。


「いたわ。ここね」


 そう言った彼女の足元には、小さな扉があった。

 共にしゃがんでみると、薄っすらとニオイを感じた。間違いない。子供のニオイだ。

 鍵はかかっていたが、魔法の前には無力なものだ。あっさりと解錠され、開かれると、狭い地下室がそこにあった。隅にいるのは子供だ。保護対象に間違いない。


「おいで」


 彼女が手を伸ばすと、子供は恐る恐る近づいてきた。助けに来たのだと察したのだろう。

 けれど、手を握った彼女は、引き上げられなかった。


「困ったわね。魔法を弾く呪文がかかっているみたい。どうにか解く方法を──」

「さあ、掴まれ」


 彼女が引き上げられなかった子供も、私の力では容易いものだった。


「ほらな、女人狼の筋肉も役に立っただろ? 私が一緒でよかったなぁ」


 やすやすと抱き上げる私を横目に、彼女はぼそりと呟いた。


「やるじゃない」


 不服そうな顔をフードで隠す彼女が、愛おしかった。

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魔女のお仕事 ねこじゃ じぇねこ @zenyatta031

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