第15話 エイジャの森の謎

 口に手を当てたまま、ヘカレスを見る。

 これは誰も気が付かない。スリを頻繁にしている者か、銀行で金を奪っている者にしか分からない謎だ。


 もしも銀行強盗をしなければ、きっと永遠に気が付かなかった。

 掲示板の人達と同じく、セキュリティボムの解除の仕方を探していただろう。解除ばかりに気を取られるとハマり込んでしまう。


「謎が分かっただと?」


「うん、そう。きっと当たってる。立証はできないけれど、エイジャの森へ行けば答えは分かると思うの」


 それは偶然気が付いた。エイジャの森の占い師も、きっと偶然気が付いたはず。

 これがもしも世の中に広まったら、セキュリティボムが意味をなさなくなり、シーフが増え金が奪われることになる。


 ――混沌とした世界がやってくる。


 それは危険過ぎる。掲示板でも騒がれているけれど、この謎は解けない方がいい。秘密にするために他人に立証実験は頼めないけれど、推理が当たっているかだけでも……知りたい。


「どういう謎なんだ?」


「ここでは話せないし試せないの。エイジャの森で占い師に会って話がしたい」


 考えていても仕方がないのでエイジャの森へ行くことにした。2度もエイジャの森へ行くことになるとは思わなかったから、ポータルブックに登録していなかった。


 よって青ネームの街のスクニブルから行くことになる。

 陽が陰ったので暗がりを利用して安全にスクニブルを出ると、馬でエイジャの森を目指す。


 考えたら1人1万リベルが貰える。この人気ぶりからして1万人の占いをしたら1億リベル稼いだことになる。掲示板の盛り上がりからしても、1万人ってことはないはずで、もっと人数は多いだろう。


 もしセキュリティボムの回避方法を知っても、占い師で儲かるためには占いが当たらなければならない。掲示板での評価は上々であり、リアルでもプロの占い師なのではないかと思えてしまうほど人気がある。


 そんな人がゲーム内で荒稼ぎしている。正直凄い才能だと思う。ゲーム内ではなくてリアルで占って欲しいほど注目している。



 さて、エイジャの森に辿り着いたのは真夜中だった。霧が出るのはゲーム時間の朝方だし、鏡の場所は固定なのか変動なのかは分からない。行って確かめるしか手はないんだ。


「どんな謎なんだ? ここで正体を暴くのか?」


「ううん。正体は謎のままがいいと思う。謎が解ければそれでいいの」


 占い師のロールプレイを邪魔するつもりはない。1万リベルは占いの対価だし本はちゃんと鞄の中にある。危害はないのでこのまま続けて欲しいと思う。


 いつか謎が暴かれる日が来るかもしれないけれど、占い師としての腕は評価されているから、そのままロールプレイを楽しんで欲しい。


 そして朝日が昇り霧が発生し始めた。この霧はエイジャの森特有の自然現象なのだろう。そして死人である骸骨が歩き出すのも特有のものだ。これらの自然現象がセキュリティボムの謎と共に取り上げられ、占いに火が付くほどの人気となったのだろう。


「鏡を見付けたぞ」


 と言うヘカレスの声を聞き馬を走らせる。

 場所はこの前の位置から移動しているが、遠く離れてはいない。


 馬から降りて鏡の前へ行く。1万リベルは鞄の中にありセキュリティボムもかけてある。

 目を閉じて1分ほど経過するのを待つと、目を開けて辺りを見回してみる。


「セキュリティボムを解除するのは無理。だからみんな謎が解けないでいる。答えはフェザータッチ。セキュリティボムを解除するのではなくて回避しているだけ」


『羽毛のように優しく触れるフェザータッチは、触れたことすら気が付かない』


 フェザータッチを取得する者はDEXが欲しいから、レベル10が当り前だろう。お陰で遠距離攻撃力がかなり上がった。その恩恵は素晴らしい。だけどシーフにとっての恩恵も残されていた。


 右腕を突き出して、左腕を腰に当てると自信満々に言い放つ。


「謎は好奇心が解き明かす!」


 誰も居ないかのように静まり返り、そよ風が木葉を揺らして光が差し込んできた。

 みんなが次の発言を待っている……。それに答えるかのように腕を組み歩き出した。


「フェザータッチはパッシブスキル。常時発動型のスキルでDEXが上がることだけに目が行ってしまうが、トラップを発動させないで触れることができる唯一のスキルでもある」


「そんな隠し要素があったのかよ。シーフが優遇されていると知れたら荒れるぞ」


 そうレベルの高いシーフなら、銀行で姿を隠したまま金が盗り放題になる危険なスキルだ。それがフェザータッチ。今はマイナーなスキルだけど、日の目を見る時が来たら、シーフには欠かせないスキルになっているだろう。


「見れるなら覗けばいい。取れるなら盗めばいい。

 それはあなたが頑張った証なのだから。


 だけど心までは盗めない。孤独に慣れたら目的を見失う。

 ゲームを楽しむって目的をね……」


 シーフになるにはハイド、ステルス、スヌープ、スティール、フェザータッチと取得するスキルが多くなる。完成するのにレベル50以上にならなければならない。

 敷居が高いから、一気にシーフが増えることにはならないはず。


 スキルのハイドは姿を隠し、ステルスで隠れたまま移動する。スヌープで鞄の中身を覗き込み、スティールで盗む。フェザータッチがあれば罠を回避する。


「2回目の銀行強盗の時、セキュリティボムが発動しないので気が付いたの。これってフェザータッチの効果だってね」


 と言って立ち止まると鏡の後ろに立っている。

 占い師は確実にこの近くに居る。そして話しを聞いている。


「これは誰にも話さないわ。自然と謎が解けるまで何もしない。だから教えて欲しいの、この推理は当たっているかを」


 しかし返事はなかった。

 馬の所へ行き、鞄の中を確認すると1冊の本が入っている。もちろん1万リベルは盗られていた。


「大正解」


 とだけ書かれた本だった。

 ヘカレスはタヨタへ飛んで屋上でヘカレスに本を見せた。


「謎が解けちまったな。これが知れ渡ったらシーフが増えるぞ!」


 シーフに鞄を開けられ金が盗られるのなら、そもそも金を鞄の中に入れなければいい……と単純な話ではない。ベンダーで買い物をする時には大金を持ち歩くことになる。


 または貿易のことは知らないが、貿易品を売った場所から大金を持って銀行まで移動することになる。

 このゲームは大金を動かす仕組みが出来上がっているんだ。


 フェザータッチを取得したシーフが増えたら、それこそ大変なことになる。だがそもそも歩いていれば鞄を覗けない。直ぐに銀行に預ければ盗られない。


 ステルスは隠れた状態のまま歩けるスキル。

 だけど移動速度が著しく低下するので、立ち止まった相手しか狙えない。だからそこまでシーフが優遇されているとは思えない。


 銀行前で放置しているから盗られるんだ。

 だけど、そんなプレイヤーが居るから銀行強盗が儲かるんだけどね。


「シーフが増えたとしても銀行強盗に影響はない。シーフもその両手斧で斬られちゃうからね」


「逆に金を集めてくれるから有難いか」


 と言って笑うヘカレス。


「さて、謎も解けたし狩りでも行くか?」


「いいね、何処へ行く?」


 と言うと、ヘカレスはポータルブックを見て考えている。

 私はレベル18だと知らせると、45番目と答えるヘカレス。


「ワームウッド大陸、地獄と呼ばれる場所だ」



-----------------------------------------------------------------

※「賢いヒロイン」中編コンテストに応募しており、ここまでとなります。

お読みいただきありがとうございました。

応援していただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紅眼と鋼-殺し屋がVRMMOに参戦したら- 刹那美吹 @ChihuahuaLove

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ