第14話 ギルドの方向性
早速バザーを開き、生肉を10個購入する。
1個100リベルなので1、000リベルだ。これでも足りなければ現地で買えばいい。
ヘカレスは座り込み、本を開いて何度も読んでいる。
プレートヘルムでその表情が見えないから、どう対処すればいいのか分からない。話題に触れるべきか触れないべきか?
「俺の占いは未然に防ぐしかない。もし当たってたとしても、逃げる算段をしておけば対処もできるだろう。それに俺のことを知っているのなら、処刑台の占いにするれば当たり易い」
「確かにその通りだと思う。当たるとは限らないけど警戒はしておくべき」
そして本を広げて読み直す。この世界に山は沢山ある。だが『亥の刻』の言葉は22時を表す。10時の方向といえば北西だ。エイジャの森から北西にある山はキンダリ山脈しかない。
位置はバルラの北の山だ。そこの山頂に翼を持ったものと出会うことになる。
「占いの謎はもう解けてるよ。でも山頂に行くにはどうしたらいいの?」
「あぁ、それならグリフォンで飛べばいい。2人乗りができるから乗せてやるよ。麓のライザの森に飛ぶぞ」
と言ってポータルブックを取り出すと、ヘカレスは飛んでいったので、その後を追うように移動する。
ここは常緑樹が生い茂り寒さで雑草はなく綺麗な森だ。見上げるとキンダリ山脈は大きく雲に隠れ山頂が見えない。
ヘカレスは早速、グリフォンを出すとまたがって手を差し出した。
その手を掴みまたがると、グリフォンは空高く舞い上がる。占いに書いてあったように、この山の頂は万年雪で1年中雪に覆われているのだろう。
高度が上がるにつれて空気が薄くなる。肌を突き刺すように吹く風は侵入を阻止しているかのようだ。
見上げると太陽を近くに感じる。
任務ばかりの人生だったら、こんな感動は知らずにいただろう。雪すらも初めて見るので、輝く結晶が手の平で溶けるのを見て「綺麗」と呟いていた。
そして山頂に着いたので翼を持ったものを探す。
「おい、あれじゃねーか?」
とヘカレスが指差す方向を見ると、そこには石像が1つ置いてある。
1対の翼を持ったものは石像だったのか?
「石像だったとはね」
「いや。ちげーぞ。あれはガーゴイルだ」
その言葉に、ファンタジーの知識が頭の中を光速で駆け巡る。
翼を持つドラゴンよりも小さな存在。普段は石化してじっとしているが、敵が現れると石化を解いて襲いかかってくる。
「あれを調教できるの?」
「スキルは持ってるのか?」
その質問に対してテイムのスキルは0だと答えると、最低でもレベル5は欲しいと言う。以前から飛ぶモンスターは欲しいと思っていたから、
グリフォンから降りて静かにガーゴイルの元へと近付く。
生肉を持ってテイムの範囲に入ると、石化が解けて動き出す。でも既にテイムは始まっているので、小さなハートのマークが浮かび上がる。
生肉を与えるとハートが少し大きくなった。肉は沢山あるから2個ずつ食べさせると、大きなハートになって甲高い声を出すガーゴイル。
生肉10個を全て食べさせた時、そのハートは顔よりも大きくなっていた。
《ガーゴイルの調教に成功しました》
「やったぁー、できたよ」
と言って飛び跳ねていた。
早速ガーゴイルを冒険の書にしまうと、ヘカレスもグリフォンをしまい空を見上げた。
「どんなギルドにしたいの?」
「血のみなぎりを感じる熱いギルドだ。この世界は戦争だけじゃない。心が躍り出すほどの冒険や宝がある。俺はそれが欲しい。だから少数精鋭のギルドにして冒険をするんだ。もちろんPKギルドであることは変わらない」
方向性は決まっていたんだ。突然辞めて急遽ギルドを作ることになって、咒鬼のようにPKや戦争をするものかと思っていた。
深呼吸をしてヘカレスを見る。落ち込んでいるかもと思っていたから、目標を持っていることに力強さを感じる。そしてハザードのアカウントはなくなったけれど、別アカウントで必ず仕返しにやってくるだろう。でもこれなら戦える。
「それでギルドハウスは完成したの?」
「土台だけできた。これから壁で部屋を作る。それと階も増やしたい」
完成は当分先だなと思った。時間がかかっても納得のいく物が作れるならそれでいい。まだ2人だし、金策もしなくちゃだし、やることは沢山ある。
「よし、金がなくなったから青ネーム狩り行くぞ!」
「いいね。金が欲しい」
この前はマリアス王国の首都ユーラ銀行を襲撃した。同じ場所は警戒されるのでア・マルティア王国の首都ワイアーズ銀行を狙うことになった。かなり大きな街なため沢山の人が銀行前に集まっているらしい。
早速、ポータルブックを開き首都ワイアーズへ飛ぶ。
「土流参之技、旋風」
体を軸に両手斧を持って回転し始める。銀行前は青ネームだらけで、平和ボケしている連中が次々と倒されていく。鞄を開けると金を盗み自身の銀行へ入れていく。2度目だからコツを掴んだらしく奪う速度が上がり効率が良くなってきた。
目の前でヘカレスが両手斧を振り回しているのに、銀行の方を向いて放置している者が多数居る。違う画面を見ているのか、寝落ちしているのかは分からないが、帰ってきたら倒されていたなんて落ちは味わいたくはない。
それにしても今日は静かだ。セキュリティボムくらいしろと言いたい。
倒された遺体はどんどん積み重なっていくから、下から順に奪っていけばいい。
それにしてもヘカレスはなんでこんなに強いのか不思議になった。他のプレイヤーだってベテランも居るだろうに。何故か簡単に倒されていく。
そして遠くに見える騎馬兵。そろそろ潮時だと言うことで、タヨタ銀行屋上に移動する。
「はぁー、面白かった。これが一番稼げるよ」
「だな。今日は人が多かった」
《お知らせ:賞金が上乗せされました。只今の金額は98万リベルです》
「おっ、賞金額が上がった上がった」
「俺も上がったぞ。賞金額7千万リベルだ」
どんだけ上げれば気が済むのか、良く生き残れているなと感心してしまう。
知っている限り危機的状況は2回あった。もし占い通りに3回目が訪れようとも、阻止するまでだ。
そして賞金首ランキングを見ると、堂々の1位をキープし続けている。
そんな男の作ったギルドに入りたいと思う気持ちも分かる。本来なら大御所のギルドで戦争を満喫していたはずだ。あんな事件が起こらなければ……。
「ちょっと通話だ。最近多くて困る」
きっと入隊希望の連絡だろう。ギルドページを見ると『入隊募集してません』と書かれてある。余程、希望者が殺到しているのだろう。と言うことはそれだけ赤ネームの人口が多いことになる。
もちろん青ネームの方が人口は多いけれど、きっと赤ネームの楽しさを知っている者達が居るのだろう。
するとヘカレスが通話から戻ったので、銀行を開き金を数えると274万リベル稼いだと分かった。盗むことで精一杯なので金を数えている暇がない。
「今回は274万リベルだから137万リベル渡すよ」
「前回よりも上がったな。サンキュー」
銀行で残高を見ると所持金1、507、925リベルになっている。貧乏から一気に金持ちだよと浮かれて踊りだす。
「ねぇ、くるくる回転してるけど『土流参之技、旋風』って何?」
「あぁ、それは武装魔具だ。モンスターを倒すと魔石を落とすんだが、それを武器に嵌め込むと、特殊な技が使えるようになる」
「技ってことは魔法と違って、近代の制約はないの?」
「残念だが武装魔具は魔法に分類されるから、近代があると使えない」
なんとなくだが分かった気がする。魔石を利用するが結局は魔力を使用するため、近代では使えないのだろう。だがラーニングポイントを消費して魔法を選んでしまうと、もう戻せない。
だけど武装魔具は魔石の中身を入れ替えれば、違う属性を試せるってことだ。
魔法にスキルに技にと色々あって覚えることだらけだよ……とスキル一覧を観ている時だった――
「あっ……ヘカレス……分かっちゃったよ……エイジャの森の謎が!」
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