筋肉の内側

鹿嶋 雲丹

第1話 筋肉の内側

「内臓がないぞう」

 俺は目の前のご遺体を前に、目を逸らしてくくっと笑う。

「よくそんな面白くもないギャグ思いつきますね……ていうか、この状況で笑えるってところがまず尊敬します」

 俺の真面目な相棒が、呆れたようにため息を吐く。

「特殊事案専任なんだから、お前も慣れてんだろ? 他人ひとを異常者扱いするな」

「今回も筋肉隆々な人、内臓ごっそり抜かれてますっと」

 相棒は俺の意見を無視して、メモをとる。

「どうしてこうも、似たような人ばかり犠牲になるんですかね?」

 ブツブツ言いながら、相棒がご遺体に手を翳した。

 欠損状態を誤魔化す為だ。

「筋肉フェチなんだろ、きっと」

「人の内臓喰らうなんて、気持ち悪いですよ……同じ人外だからって、僕にはさっぱり理解できません」

「俺達は人と同じ食い物からエネルギー摂取できるからな……おぉ、いつも通り見事な復元術だねぇ」

「えぇ、これで司法解剖されても急病が原因と判断されるでしょう……ねぇ、本当に気持ち悪くないんですか?」

「犯人の行動理由がわからなくて、モヤモヤするのが気持ち悪い」

「あっ、囮作戦やりましょう! 先輩筋肉あるからいけますよ!」

 かくして筋肉ムキムキの俺は、犯人をおびき寄せる餌となった。

 犯人は意外とあっさり捕まった。

 やはりタンクトップは正解だったのだ。

「お兄さん、いい筋肉してますね」

 特別な縄で縛られた犯人が、しみじみと言う。

「あー、お前ひょろひょろだもんな……んで、嫉妬して相手選んでたのか?」

「まあ、それもありますがね……興味があったんですよ。筋肉ムキムキの人って、内臓もムキムキしてるのかなって」

「んなわけないでしょ」

 相棒は呆れ、縄を引っ張る。

「え? 俺死刑?」

「最終判断はお上の仕事だから……ほら行くよ」

 俺は消えていく二人の背を見つめた。

 やはり、筋肉はないよりあった方がいい。相棒にも筋肉つけさせよう。

 俺はそっと心に誓ったのだった。

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筋肉の内側 鹿嶋 雲丹 @uni888

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