恋のライバルは、ムキムキマッチョグマ

緋色 刹那

💪

「好きです。付き合ってください」

「ごめんなさい。私、付き合ってるクマがいるの」

 ……そっか、そうだよな。

 こんな可愛くていい子に彼氏がいないわけ……ん?

「付き合ってる……クマ?」

「そう。クマ」

 そう言うと、阿部あべちゃんは一匹のクマを連れてきた。二足歩行で、ぴちぴちのTシャツとジャージを着ていた。

「紹介するね。マッチョグマの武毅むきマチョヲさんよ。ジムでトレーナーとして働きながら、ボディビルの大会に出てるの。クマ部門で優勝したこともあるのよ」

「グマ!」

「どう? すごい筋肉でしょ? 子グマが両腕にしがみついてるみたいじゃない?」

「グマグマ!」

 クマは得意げにポーズを取る。野生のクマの比でない、鍛え抜かれた筋肉が目の前に立ちはだかっていた。

 マッチョグマとは、人間と共存している数少ないクマ種だ。争いを好まず、その生涯を筋トレに捧げる。主食はプロテインとササミで、マッチョグマに人権が認められるようになってからは、スーパーでもクマ用のプロテインが売られるようになった。

 まさか阿部ちゃんが筋肉好きな上に、マッチョグマと付き合っていたとは……さすがに予想外だった。

「私と付き合いたいなら、マチョヲさんと同じくらいのマッチョになってもらわないと無理ね。少なくとも、今の君からは魅力を感じられないわ」

「そんなぁ」

 自慢じゃないけど、僕は筋肉の「き」の字もない。ひょろひょろエノキボディだ。

 今のままじゃ、阿部ちゃんを振り向かせられない。

「くっそー! 僕もクマに負けないくらいマッチョになってやるー!」

「頑張れー」

「グマー」


 僕はジムに通い始めた。

 そのジムはトレーナーさんも常連さんもマッチョグマで、僕の専属トレーナーは阿部ちゃんの彼氏になった。

「グマッ! グマッマ!(訳:いいぞ! もっと筋肉を追い込むんだ!)」

「何言われてるか分かんないけど、いつか阿部ちゃんを返してもらうぞー!」


(終わり)

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恋のライバルは、ムキムキマッチョグマ 緋色 刹那 @kodiacbear

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