猫のシッポが筋肉痛になりまして

ねこ沢ふたよ@書籍発売中

第1話ええ、なるんです……お医者様はそう申しました

 ダランと垂れたシッポ。

 情けないくらいに萎れた顔をするのは、飼い猫のクラウン。

 子猫の時には、人の頭の上に載ることが好きだったお調子者の猫。


「き、筋肉痛ですか?」

私の問いに、


「ええ、なるんです。筋肉痛」

と先生はおっしゃる。


「動物……犬猫のシッポは、五つの筋肉の複雑な収縮により、あんな風に複雑に動くんです」


 先生の説明に、普段のシッポの動きを思い出す。

 

 甘える時には、しっぽを上にピンと立てて寄ってくる。

 ちょっと不機嫌な時には、だるそうにしっぽを横にブンブンと振る。

 好奇心をそそられた時には、しっぽまでワクワク、そわそわしながら揺らしている。


 そうだ。確かにそれは、きっと筋肉の動きだ。

 犬もそうだということは、あの近所のシバ犬君の、喜びを最大限に表現した、千切れんばかりに振るしっぽも、筋肉の動き。


 それは、アスリートがフィールドで全力疾走するときの様に、筋肉を使い倒している状況ではないだろうか?


 なるな。筋肉痛。

 うん、理解した。


「聞いてます?」


 思考が多方面に膨らんで、ぼうっとしていた私を、先生が覗き込む。


「あ、ごめんなさい。えっと、それでどうすれば良いんですか?」

「二、三日すれば、治ると思いますので、様子を見て下さい」

「……治らなかったら?」


 そう。気になるのはそこ。


「切るんです」

「へ?」

「しっぽをね。チョンッと」


 にこやかに言い切る先生。


「しっぽを??」


 それは、指つめろや、おらっと、任侠お兄さんが言っているのと、どう違うのか……。


「ただの筋肉痛なら元に戻るのですが、他の病気があった場合ですね、神経の関係で排泄が難しくなってしまうんです。だから、切るんです」


 なるほど……排泄が出来ない方が、健康には悪そうだ。

 しかし、それ、猫にとっては、とても嫌なことなのではないだろうか?


 幸い、クラウンのシッポは元に戻って、今日もご機嫌に揺れている。


「しっぽってそんな高性能だったのか……」 


 アニメのシッポ付きキャラを見る目が、今後変わりそうな出来事だった。

 今後、シッポに重い荷物を乗せたり、シッポにぶら下がったりするシーンでは、これまで以上にハラハラドキドキしてしまうだろう。

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