筋肉が全てを解決するデスゲーム
砂漠の使徒
イエス! マッスル!!
「うぅ……」
目が覚めると、そこは見知らぬ場所。
体育館くらいの広さの場所に数十人が集められている。
「ごきげんよぅ〜!!!」
天井のスピーカーから、耳障りな声が聞こえてきた。
「あなた達には二人一組になってデスゲームをしてもらいますわ〜!!!」
「えぇ!?」
デスゲームって……。
あのデスゲームだよな。
人が死ぬやつだ。
「夢じゃ……ないよな」
背中を流れる冷や汗の感触はすごくリアルで、夢じゃないことを物語っている。
「右手についている腕輪の色と同じ色の腕輪をつけている人を探してくださいませ〜! それがあなたが死ぬまで共に過ごすパートナーですわ〜!!!」
腕輪って……これか。
金属質の重い腕輪はガッチリとはまっていて、外せそうにない。
いや、今はとにかくパートナーを探さなくては。
「あ、赤っ! 赤の人はいませんか!?」
僕は腕を天高く突き上げた。
すると、人混みをかき分けて誰かが進んでくる。
「やあっ! 僕も赤の腕輪だよ!」
「……っ!」
その人はすごく人の良さそうなお兄さんだった。
しかも、ものすごくマッチョ!!!
タンクトップを着ているのだが、その下の筋肉が盛り上がっている。
「よろしくお願いします!」
「うん、こちらこそよろしく!」
握手を交わす。
彼の手のひらはとても大きくて、頼もしい。
「それでは、第一ゲーム!!! ドキドキ鉄球レース!!!」
スピーカーが叫ぶと同時に、前後の壁が開いた。
一方には長い通路が、もう片方には大きな鉄球が見える。
「向こうのゴールまでたどり着けば、クリアですわ〜!!!」
ズズズと鉄球が転がり始めた。
このまま突っ立っていたら巻き込まれてしまう。
「走りましょう!」
「あぁ!」
――――――――――
「はぁ……はぁ……!」
なっげぇよ!!!
どんだけ走らせるつもりだ!?
この廊下終わりが見えないんだが!?
無限に続いてるのか!?
「ほら、頑張ってください!」
隣のお兄さんはニコニコしながら僕のことを励ましてくれる。
さながらインストラクターだ。
けど、くそぅ……。
そうは言われても、もう限界だ。
「すみません……」
他の人はみんな先に行ってしまった。
そんな中、律儀にパートナーである僕を応援してくれたことには感謝している。
だが、彼までここで共に死ぬことはない。
「先に行ってください……!」
彼なら、まだ大丈夫だ。
今だって息一つ乱さずに、ジョギングのように軽やかに僕と並走している。
本気を出せばもっと早く走れるのだろう。
ならば、僕のことは見捨てて……。
「いえ、それはできません」
「え?」
完全に予想外の反応だった。
「あなたはもう十分に頑張った、そうですね?」
「はぇ……? そ、そうですけど……」
たしかに僕は、足が震えてもう動かない、それでも無理やり走っている。
こんなに走ったのは人生で初めてだ。
でも、それがなんの関係が?
「では、休憩といきましょう。筋トレは鍛え続けるだけじゃありません」
そう告げると同時に彼は立ち止まった。
当然ながら鉄球は止まるはずもなく、僕達に刻一刻と迫ってきている。
「な、なぜ……! あなたが……!」
走り続ければ助かるのに。
こんなところで止まらなくても。
「あぁ……」
段々大きくなる鉄球。
僕の身長よりも大きいそれは、押しつぶすべく近づいてくる。
「これ、邪魔ですね。止めます」
「ええ……?」
なにが、邪魔だって……?
まさか鉄球のことを言っている?
いやそれは邪魔とかそういう問題じゃなくて……。
「ふんっ!!!」
「……え?」
彼はグッと両腕を前に突き出した。
鉄球とぶつかる。
しかし、彼は微動だにしない。
……鉄球も。
「止まっ……た?」
ウソ、信じられない。
「ふぅ〜、やはり筋トレはまんべんなくですね。今朝下半身を鍛えるのを怠ったので、少し圧されてしまいました」
涼しげな顔で、僕に語りかける彼。
な、何を言っているんだ?
そもそも止めることがイレギュラーなのだが?
「少しは息、整いましたか?」
「え……。あ、はい」
「それでは、私特製のプロテインをどうぞ。運動の後はこれです」
彼は下に履いていたズボンのポケットから、水筒を取り出して僕に差し出す。
「ありがとう、ございます」
後に僕達は伝説になる。
デスゲームを筋肉で解決した唯一の生還者と。
(了)
筋肉が全てを解決するデスゲーム 砂漠の使徒 @461kuma
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