トラックに轢かれて緊急手術!生死の淵を彷徨った俺が蘇ると筋肉の声が聞こえる!違います、頭は正常です!
いずも
体は悲鳴を上げていると今更言われてももう遅い!
俺は金剛力士
「行ってきま~
ドゴオォォ!!!
玄関を開けて五秒で異世界送りのトラックに跳ねられて俺は死んだ。えっ、早っ。
しかし異世界の存在を信じない俺は自力で元の世界に戻ってきた。ボロ雑巾のように轢かれた体は四肢切断で心肺停止状態だったが「え、ここからでも受けられる手術があるんですか!?」のコマーシャルでおなじみ『株式会社心に傷を負った者だけが顔に傷を負った医者に診てもらえる葬』によって無事手術は成功した。いや無理じゃね? ていうか間黒男エージェント契約してるじゃん。そもそも四肢切断してる時点で生きてる方が地獄じゃね?
俺は五体満足で何事もなく日常生活を取り戻した。なんで? 俺が聞きたい。
ただ一つだけ今までと違う点、それは――
「はあ、肩が凝ったなぁ。ちょっと揉んどくか」
『ちょっとぉ、もっと丁寧に揉みなさいよ! そんなに力を入れたら痛いじゃない』
肩が喋る。
正確に言うと肩にある三角筋が喋っている。
『ああ~、いいわぁ。ああん、そこそこぉ~』
「喘ぐな」
『ここでアタシが叫んだらアンタの人生おしまいね』
「そうだな。一人で喘ぎながら叫ぶ不審者だ」
いつの頃からか筋肉が語りかけてくる。俺は応える。なんで俺こいつらと意思疎通できるんだろう。うん、よく考えりゃこの筋肉も俺だもんな、出来て当然あたりまえ体操だわな。
『おいおい箸の持ち方おかしいだろ。ちゃんと持ったら俺がこんなに疲れるはずないんだからさ~。子どもじゃないんだからわかるでしょ?』
『あのぉー、階段を降りる時はぁー、手すりを持った方がぁー、バランスが取れると思いますぅぅぅ』
『痛った! 痛った! ファッ○! いい加減新しい靴買えよこの貧乏人! こりゃあ踵すり減らしすぎて地面とキスする日も近いかもなHAHAHA』
俺の筋肉表情豊か過ぎんだろ。
ていうか客観的に見たら俺が一人で筋肉と会話してる。左手で右手を叩きながら箸の持ち方を矯正したり歩きながら○ァックとか叫んでる。違うんです術後からちょっと筋肉がお喋りになって……なんて言ったら今度は精神科へGOだ。
俺は筋肉を黙らせる方法を探した。google先生は「ゴリラ系マッチョ筋肉はイケイケヤンキー筋肉で黙らせろ!」とのたまう。意味がわからん。目には目を歯には歯を。筋肉には筋肉を。意味がわからん。
とりあえずスポーツジムに来た。ここなら自称筋肉の第一人者がたくさんいるはずだ。第一通い人発見。ほどよく贅肉が揺れている。ドラム缶じゃねえか。
『ヘイそこの彼女、俺とベンチプレスしない?』
筋肉がナンパしてる。
『ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛!!!』
筋肉が悲鳴を上げている。効果は抜群だ。
『だらしないわねぇ』
俺の筋肉がフラレていた。傍から見たら俺がフラれてる。
黙々と筋トレしてたら筋肉たちも黙っている。なるほど、これが正解だったか。
翌朝全身筋肉痛で動けなかった。
こいつらが死んだら俺も死ぬ。
それでも懲りずにジムに通い続けた。
最初は静かだった筋肉も慣れてきたのか
『え~、こんな負荷じゃ満足でーきーなーいー』
『んほ~! このクロストレーナーたまんねぇ~』
『こいつ澄ました顔してるけどオナラ我慢してケツに力入れてるんすよ、ウケる』
この後めちゃくちゃレッグプレスした。
そのままジムに通い続けてたらやたら筋肉に詳しいヤツが居ると評判になってトレーナーになることを勧められた。特にやりたいこともなかったのでオッケーした。
慣れない体育会系のノリにもひたすらついていった。先輩が小菱形筋と言えば、たとえ小円筋だと思っても小菱形筋が正解だった。小円筋は何も言わずに背中で語った。『ウッス、パイセンチッスチッス』長いものはまかれろタイプだった。
運動量に見合うだけの食事も摂った。町内中のササミと豆腐を買い占めて白い目で見られることもあった。
「触るとね、ほら、喜ぶんですよ。おへそをチラリ」
『奥さん、今日も艶が良いね』
パートのおばちゃんはシックスパックで買収した。
食って、飲んで、寝て、筋肉と語り合って。そんな充実した日々が続いていた。
そんなある日。
『――あの』
「ん? 聞き慣れない声だね。えっと、キミはどこの部位かな」
『そろそろ、限界です』
「そいつは物騒な話だ。詳しく聞かせて」
返事がない。ただのしかばねのようだ。
「……へ。何がどうなって――」
『うわぁぁぁ!! 肝臓が逝っちまったぁぁぁぁ!!!』
『沈黙の臓器の名は伊達じゃねえ』
『マジパネェっす』
どうやら、声が聞こえるのは筋肉だけじゃなかったみたいです。
みんなも気をつけようね☆
トラックに轢かれて緊急手術!生死の淵を彷徨った俺が蘇ると筋肉の声が聞こえる!違います、頭は正常です! いずも @tizumo
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