ノーと言える日本
丸子稔
第1話 理不尽な要求
丸子首相は困惑していた。
X国が自国の貿易赤字を口実に、またしても無理難題を吹っかけてきたのだ。
今までも丸子首相の人の
X国は、筋肉の形成に欠かせないプロテインの何倍もの効果があるサプリメントを開発したため、それを高額で我が国に売りつけようとしているのだ。
丸子首相はさっそく各大臣を招集し、緊急会議が始まった。
「はあ? X国は、またそんな無茶を言ってきたんですか?」
「何を考えてるんだ。そもそも、そのサプリメントの効果も、まだ実証されていないんでしょ?」
「首相、まさかその要求を呑むつもりじゃないでしょうね?」
X国への怒りをあらわにする大臣たちに、丸子首相は「無論、こんな無茶な要求を受け入れるつもりはない。来週のX国との会談の際に、はっきりノーと言うつもりだ」と、言い切った。
「そんな強気なこと言っていいんですか? どうせ、いざとなったら、またイエスって言っちゃうんでしょ?」
「首相のイエスマン振りは板についてますからね」
「だからナメられるんですよ」
これまでの丸子首相の言動から、大臣たちは今回も彼は要求を受け入れるものと踏んでいた。
「君たち、口を慎みたまえ! 私はいざとなったらやる男だ」
珍しく声を荒らげた丸子首相を、大臣たちは「その言葉が嘘にならぬよう、我々は心から願ってますよ」と、冷めた目で見ていた。
一週間後、X国首相が通訳を従えて、会談場所の高級ホテルにやってきた。
彼は服の上から見ても分かる程、筋肉が隆起していた。
丸子首相と大臣たちは彼等を会議室に招き、早速会談が始まった。
最初、X国首相がサプリメントについて母国語で説明し、その後通訳が日本語で話し始めた。
「我々X国は前々から筋肉について研究してきました。美しい身体を保つために筋肉は欠かせません。筋肉がつくと基礎代謝が高まり、血行が良くなります。また余分な脂肪をそぎ落とすことで、脂肪肝などの病気も防ぐことができます。皆さん、首相の身体を見てください。この身体は、サプリメントによって作り上げられたものです。彼は自らの身体を使って、サプリメントの効果を示したのです。なので、安心して買ってください」
流暢な日本語で通訳が説明する横で、X国首相は自慢の大胸筋を見せつけるように、大きく胸を反らせていた。
「首相、まさか、あんなの信用してるんじゃないでしょうね」
「どうせ、嘘に決まってますよ」
「今日こそは、はっきりノーと言ってください。まあ、無理だとは思いますが」
大臣たちが冷ややかな目を向ける中、丸子首相は険しい顔をしながらゆっくりと立ち上がり、「そこの通訳の人! 今から私の言うことを一言一句漏らさず、ちゃんと伝えてくれ!」と、言い放った。
いつもと違う丸子首相の攻撃的な姿勢に、周りは一気に緊張が高まり、大臣たちは今日こそはと期待の目を向けた。
重苦しい空気が会場を支配する中、丸子首相は険しい顔を保ちながら、おもむろに口を開いた。
「わしはのう! 広島生まれじゃけえのう! ノーなら、なんぼでも言えるけえのう! あんまりナメるなよ」
丸子首相の突拍子もない発言に、大臣たちは目を白黒させ、通訳はどう訳していいか分からず、おろおろしていた。
その様子を尻目に、丸子首相はドヤ顔を決め込んだまま、意気揚々と退室していった。
了
ノーと言える日本 丸子稔 @kyuukomu
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