あなたに言われる筋合いはない

だら子

第1話

「いい筋肉しているじゃないの」


そう言われるために、ありとあらゆることをしている。


トレーニングはもちろん。

良質なたんぱく質をとり、アルコールを取らない生活。


友達と食事に行ってもトレーニング時間には帰る。


彼氏には振られた。

「俺と筋肉…」

「どっちが大事?」と聞かれる前に答えた。


鍛えた筋肉はもりっと盛り上がり、

いつの間にか、私に話しかけるようになった。


「あんた、なんの為に筋肉つけてんの?虚しくないの?」


「あなたのような美しい筋肉を見るためよ。どんな景色より、わたしの筋肉が美しい。おとぎ話なら、川から流れてくるのは筋肉だし、シンデレラが落としたのも筋肉。狼は筋肉になって赤ずきんちゃんを襲うまでよ」


わたしの筋肉は、鏡ごしにわたしをみて呆れていた。


「依存しすぎ」


「は?なにそれ」

私は唇を尖らせる。


「筋肉しか信じてないんでしょ?それって結局自信がないってことじゃない?」


「ちょっと筋肉の分際でなによ、あなたに言われる筋合いはない!!」


鏡をドンと手で叩いた瞬間、わたしの筋肉の全てが落ちていった。



今までの努力はなんだったんだろう。

人間は裏切るけど、筋肉は裏切らないと信じてたのに。


彼氏に浮気され、引き締まった身体になりたいとジムに入会した。

自分を変えようとした時、出会ったのが筋トレだった。


筋肉を維持するには、それだけの労力もかかる。サボれば脂肪。

筋トレを辞められない理由があったのだ。


着たい服は着れなくなりワンピースが似合わなくなった。


彼から、筋肉へ。

バランス感覚がわからない。



「あの筋肉の言う通りだわ」

脂肪のついた身体で、コーラを飲みながら宙を見つめる。

さすが筋が通ってるだけある。


目は宙だが、耳は研ぎ澄まされていたその時、

ラジオから流れるアイドルの歌に涙した。


なんて美しい声!!このグループは一体!?



コーラを投げた指で、検索を始める。


次の依存先を見ーつけた。

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