10 俺たちはチームだ

「黄さん、実は、よかったら『Angeart』で働いてみないかと本日相談に来ました。デザインマネージャーを募集しています。給与は月二十万元でスタートです」と沈曼依が説明した。

「二……二十万だって?」黄佑恩は開いた口が塞がらなかった。

「はい。当社の福利厚生は非常に充実しており、ビジュアルデザインの業界では通常、このような好待遇はなかなかありませんよ」

 こんな好待遇、ありえないだろう。

「どうして俺なんですか?」黄佑恩はまだ信じられない様子だった。

「当社は単なるレンタル部下サービスを取り扱う会社ではなく、ヘッドハンティングもしているのです」

 沈曼依はすらすらと説明を続けた。「当社はレンタル部下サービスを提供する一方で、『部下』を使って各企業で秘密裏に調査して適任者を探し出し、プロフェッショナルな人材を求めているクライアントに推薦もしています。このような方法の理由は、身近に潜んでいるかもしれない優秀な人材を逃したくないからです。幹部クラスの人材は簡単に見つかりますが、幹部になれるポテンシャルがあっても輝きを放つチャンスに恵まれていない人もいます。これは、まだ管理職になっていない優秀な人材のために、出世の道を開いてあげるという意味もあるのです」

「この事業を始めて以来、当社の『部下』たちは様々なタイプの『上司』を見てきました。優秀な人材はたくさんいましたが、立場を変えても考えを変えない人はめったにいませんでした……」

 その話を聞いた黄佑恩は、蘇小卉に迷える子羊のような表情を見せたが、沈曼依の話に集中していた彼女はそれに気が付かなかった。

 黄佑恩はそのまま黙って、沈曼依の話が続いた。「……もし、このような希少なエグゼクティブ人材に出会えたら、必ずすぐにクライアントにその者の履歴書を提出します。また、立場が変わると考え方が変わる人もいますが、『部下』からアドバイスを受けることで自覚し、実際に行動を修正する人もいます。こういう自己反省能力が高い人材こそ推薦されるべきです。例えば、黄さんも私たちが挙げる人材の一人なんです。しかも、当社ではちょうどあなたにピッタリな求人がありますから、優先してお誘いいたします。他のクライアントの企業に興味をお持ちでしたら、もちろん喜んでご紹介します」

 黄佑恩は呆然としたまま話を聞いて、これはドッキリじゃないかと疑った。

「えっと、それなら、小卉──つまり君たちが用意したレンタル部下は──ヘッドハンターでもあるってこと?」

「BINGO!」と、蘇小卉はハイテンションでそう答えた。「そうです。私とRodneyはずっとチームですよ。Rodneyが知らなかっただけです」

「俺たちがチームだと?どういうことだ?」

「『上司』に心変わりの兆しが見えたら、どうすれば上司の行動を正せるかを考えるのが私たちレンタル部下の仕事です」蘇小卉は言った。「けどこれは運次第です。何しろ、すべてのお客様がRodneyのように一か月も借りてくれるわけではないのですから、チャンスはそうそうありません。コミュニケーションは技術でもあり、自分の行動を修正する必要があることに気づかせることができれば、それは私にレンタル部下としての力があったということです。だから、私も会社から推薦を得ることができました!管理職に昇進することに限りませんが──少なくとも、『Angeart』のクライアントの中では優良な大企業がたくさんで待遇もいいんです。だから、Rodney、私を部下にしてくれて、こんなチャンスを与えてくれて、私こそありがとうございました」

「そう。小卉はあなたのためになると同時に、あなたが小卉のためになった。だから、あなたたちは一つのチームなんですよ」沈曼依は笑顔でそう補足した。

「これは冗談ですよね!」黄佑恩は恥ずかしさで危うく卒倒しそうになった。


 こうして、黄佑恩はそれ以上何も言わず『Angeart』と雇用契約を交わした。

 蘇小卉も『Angeart』の推薦を得て、別のファウンドリで働くことになった。給料はまだ黄佑恩の以前のレベルには及ばないものの、悪くない待遇だった。二人はお互いの成功を祝うため──今度は正真正銘二人だけの食事デート──スカイバーでディナーだった。ジャズバンドの演奏を聴きながら赤いと青い光に包まれて、黄佑恩はその場の雰囲気がとても良いと思った。

「実は、今日、伝えたいことがあるんだ」食後のデザートを平らげた後、お酒で耳が赤くなった黄佑恩はそう口にした。

「なぁに?Rodney」蘇小卉はキュートな笑顔を浮かべた。彼女は肩から腰まで斜めにカットされたワインレッドのドレスを着ていた。両耳には美しい銀色のイヤリングが暗い店内のライトを浴びて、さらに輝きを増していた。

「君が俺のレンタル部下だった頃、俺がストレスで知らず知らずのうちに部長と同じことをしたと言ったよね?実は、その時ちょっとイライラしていた理由は、それだけじゃなかったんだ」

「うーん、それはどうしてですか?」

「それに答える前に、聞きたいことがあるんだ……」店内のクーラーが利いているにもかかわらず、黄佑恩は首に汗が流れているのを感じた。「Leoに対してどう思ってる?」

「どう思うって?特にないですね。短い期間だったけど良い同僚くらいかな」

「告白されたか?」

「されてませんよ。彼はもっと素敵な人が見つかったかも、ですね」

 黄佑恩は驚いた。「え、ということは……もう知っていたんだ……」

「そうです。Rodneyの言うことが正しいことだと知っていました。女たらしって言うやつですよ」蘇小卉は笑みを浮かべながらそう答えた。

「じゃあ、あの時……」

「私がRodneyにちょっと当たっていたけど、あれも『試験』の一部だった」

「ひっどいなぁ」黄佑恩はギロリとした目で彼女を睨んだ。蘇小卉はいかにも可笑しそうに笑った。

 それから黄佑恩は少し間を開けてから話を続けた。「今、白状する。あの時、君とLeoの距離が近づいたから、嫉妬の感情が増してしまって、君に……あんな酷いことを言ってしまった」

「でも、もう大丈夫ですよ。今、あの会社には私を知っている人はもういませんよ。もちろんLeoも、でしょ?」

「確かにその通りだけどまだちょっと……気にしているんだ」

「何にですか?」

 黄佑恩は目を蘇小卉に向けた。彼女が飲んでいるのはピンク色のお酒で、彼女の頬もまたピンク色に染まった。それに彼女が纏うまばゆく美しいドレスのワインレッド、どれも愛を象徴する色ではないか。

 彼女を異性としてずっと意識していたが、今の彼女が一番美しいと思うのだ。

「気にしているのは、君の気持だ」黄佑恩は深呼吸した後、「小卉、好きです。俺と、付き合ってくれませんか?」

 蘇小卉の表情を見た黄佑恩は100%確信した。蘇小卉はその笑顔を浮かべながら、彼に対して小さくうなずくだろう。

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レンタル部下 沐謙/KadoKado 角角者 @kadokado_official

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