9 送別会

 蘇小卉のレンタル期間が残り三日になり、黄佑恩はようやく勇気を振り絞って彼女の席へ歩み寄った。

「ごめん!」と一言謝罪した。

 蘇小卉は彼を見上げた。だが、それは自分が想像していた気まずさや無関心、軽蔑ではなく、彼女の目はキラキラしていた。

 蘇小卉は何も言わず、黄佑恩の次の言葉を待っていた。

「君の言う通りだ。俺は間違っていたんだ」とさらに謝罪した。そして黄佑恩は、「よかったら、一緒にランチに行かないかい」とついでに誘った。

「はい!」蘇小卉は元気いっぱいの声で、まぶしいくらいの笑みを浮かべて、そう返事した。

 正午、黄佑恩は数日前から胸に温めていた決意を込めて、言いたいことを息継ぎすることなく全て言った。「ここ何日かは君が言っていたことをずっと考えていたんだ。上司になって、ようやく部長のあの行動の理由が分かったんだ……あの行動が正しいということではなく、あの状況では自分の辛さだけで精一杯で、部下の辛さを考える余裕がなくなって、知らず知らずのうちに元々自分が嫌っていたことをしていたんだ」

「俺もようやく気が付いたんだ。上司の顔色をうかがっても物事は解決できず、結局は悪循環に陥るだけなんだと」

 ドキドキしたまま蘇小卉の反応を待っていると、彼女の笑顔が以前よりずっと柔らかく、可愛らしくなったことに気がついた。

「Rodney、そう言ってくれてありがとうございます。とても嬉しいです」と蘇小卉は嬉しそうに見えた。「私もごめんなさい。ちょっとハッキリ言いすぎました」

 黄佑恩の身体にじわじわと安堵感と開放感が広がって、心臓まで伝わると、温もりがこみ上げてきた。

 黄佑恩は微笑みになり、蘇小卉も微笑み返した。


「Rodney、社長に見てもらうために、必ず何種類かのバージョンを録音しておくように」

 謝旻娜からの指示を見るや否や、黄佑恩はすぐに電話を取り、社長の内線番号をダイヤルした。

「社長、これならどうでしょうか。スタジオの声優さんの何人かに忘年会の動画の台本から短いクリップを読んでもらいましょう。コストも比較的安いですし、サミットのオープニング動画など他の仕事に人手を割くことができるかと……」

 事態は思ったほど楽ではなかった。黄佑恩は無駄に何バージョンも動画を作らなくて済むように、社長と電話で十分ほどやりとりし、社長室へ自ら足を運んで、このプランを承認するよう説得した。

「Rodney、社長に駄目だしされた新しいカタログのデザインは小卉が作ったものでしょ?なんでしっかりチェックしないの?」

 今回、黄佑恩は前回のメール記録を見つけ、「これ、最初は部長にもccに入れて送ったんですけど」とスクショを謝旻娜に送り付けた。

 謝旻娜は自分が言ったことが道理に合わないと知って黙り込み、物言わぬ人形になってしまった。

 この最後の三日間、黄佑恩は謝旻娜からのパワハラと押し付けられた余計な仕事から蘇小卉を何とか庇うことができた。そして、二人は会社で昼夜を問わず働く必要がなくなり、最終日には黄佑恩が蘇小卉の送別会として焼肉を食べに行く余裕もできた。

 その日の仕事中、蘇小卉は顔に嬉しさを隠しきれなかった。黄佑恩は「やっと地獄から解放されたから、そんなに嬉しいのか」と冗談を言うほどだった。

「違いますよ。 今夜話しますから」 と蘇小卉は言った。

 夕方仕事を終えて、焼肉屋に入るとすぐに、蘇小卉だけでなく、正装した満面の笑みを浮かべた美しい女性がいた。彼を見るや否や、二人は立ち上がり、女性は温かく手を振ってくれた。

 その女性は沈曼依だった。

「なぜここに?」黄佑恩は理解が追い付かなかった。

「黄さん、送別会にお邪魔して申し訳ありませんが、大事なお知らせがあります」、沈曼依は満面の笑みを浮かべながら着席した。

「ごめんなさい、Rodney。とても素晴らしいお話があるものですから、いきなりこんな場面に呼び出しちゃって」蘇小卉は嬉しくて目がキラキラしていた。

「どういうことですか?」と黄佑恩は沈曼依と蘇小卉を交互に見ながら頭の中は疑問符でいっぱいだった。

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