KAC20234 深夜の散歩で起きた出来事

橋元 宏平

きっと明日は絶望する

 いつものように散歩をしていると、誰かのくしゃみが聞こえた。

 このところ、あちこちからくしゃみの音が聞こえてくる。

 おれも、鼻がズビズビするし、目もかゆいし、涙と鼻水が止まらないんだ。

 いつもの公園へ行くと、仲間達が輪になって座っている。

 老若男女問わず、良く見知ったヤツらが、顔を揃えていた。

 大人達が会議を行なっている間、子供達はじゃれ合って遊んでいる。

 情報交換が終われば解散となるのだが、今日はなかなか帰らない。

 みんな、飯が来るのを待っているんだ。

 腹を鳴らして、口々に「遅い」と文句を言いつつ、待っている。

 深夜になって、ようやく彼が大急ぎで走って来た。

 みんなが抗議こうぎの声を上げると、彼は謝りながらガサゴソと飯を取り出す。

「みんな、ごめん! 仕事で遅くなっちゃって……」

 彼は、地面に大きな皿を置いて、その上に飯を盛り付けた。

 おれたちは「待ってました」とばかりに、飯に食いついた。

「そろそろ換毛期かんもうきだから、毛玉ケアキャットフードにしたよ。ほら、仔猫ちゃん達もご飯だよ~」

 彼が声を掛けると、子供達が嬉しそうに駆け寄って来る。

 子供達がおれたちと同じ飯を食おうとすると、彼は別の皿を差し出す。

「ダメダメ、カリカリは成猫用だから。仔猫ちゃん達は、こっちだよ」

 おれたちが飯を食い終わると、彼は皿を片付けた。

 腹いっぱいになった仲間達は、自分の場所へ帰って行った。

「明日は、遅れないようにするから。じゃあ、またね」

 彼はそう言って、去って行く。

 なんだか彼が、元気がなさそうな気がして、少し心配になった。

 彼の横を並んで歩き、「大丈夫か?」と声を掛けた。

 彼は立ち止まって、じっとおれを見つめた後、にっこりと笑った。

「お前、ひょっとして花粉症か? よし、明日病院連れてってあげるから、おいで」

 彼はおれを抱き上げて、嬉しそうに歩き出した。

 なんか分からんが、彼が元気になったみたいだから良しとした。

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