深夜の散歩で彼女は変わる。

黒羽冥

第1話素敵な彼女。

いつもの俺なら深夜に散歩などする事は無い。

まして元々運動が苦手で走る事はもちろん歩く事など皆無な俺だ。

だけど今日は特別散歩の理由ができてしまった…。

遡る事三時間前。

今日の俺は大好物のとある食べ物を手に入れたのだ。

その食べ物…とは!?

そう…カレーである。

俺の部屋のお隣さんは今月頭に引っ越してきた女性…。

来月から社会人一年目で就職先が決まり偶然にも俺の部屋の隣に引っ越してきたそうである。

三十路手前の独り身の俺にとって彼女はとても眩しく映ったのだ。

そんな彼女は料理が得意なようでカレーが最も得意らしい…。

これは想像なのだが…よくカレーの匂いがしているからだ。

そんな彼女が先程…隣の部屋の俺にカレーの差し入れを持ってきてくれたのである。

ピンポーン!

俺の部屋のチャイムが鳴り玄関先に出るとそこにはエプロン姿が超似合う隣りの部屋の彼女。

そして…手にはタッパーを持って立っていた。

「あの…。」

「はい?どうされました?」

「私が作ったカレーなんですけど沢山作りすぎちゃって…良かったら食べていただけませんか?」

彼女は十人分は入るのでは?というくらいの巨大なタッパーを持っていたのである。

「あ…そうなんですか?こんなに…いいのですか?」

「はい!実は作りすぎちゃって困っていたんです…良かったら…。」

「ありがとうございます!」

「あ…タッパーはいつでもいいので。」

俺はこうして彼女からカレーをたんまりと貰ったのである。

そしてたらふく食べた俺は食べ過ぎ…もあるが最近は彼女の事がめちゃくちゃ気になり…少しは…痩せないと…と思い深夜だけど散歩に来たという訳だ。

「はぁ…はぁ……。」

散歩に出てきたのはいいのだが…普段から運動はおろか散歩などしない俺…そんな俺は身長160cm…体重は100kgの大台にこの春乗ってしまったのだ。

「はぁ…はぁ…。」

一般的に見れば最早ぽっちゃりという可愛いレベルではない俺。太り過ぎという事もあり…心臓はバクバクと鼓動が激しくはっきり言って相当やばい。

額から汗が湧き出し、着ているTシャツはきっと絞ったらかなりの汗が出てくるだろう。

「はぁはぁ…もう限界……。」

俺は近所の公園を通りかかると休憩をしようとベンチを探す。

こんな真夜中に誰もいなさそうではあったが、

なんとベンチには先客が座っていたのである。

俺は暗がりの中、思わず声をかけてしまった。

「あ…あの…はぁはぁ…そこ…俺にも座らせて……も……もらえませんか?」

俺が声をかけると先客は俺の座る場所を開けてくれたのだ。

「どうぞ。」

「はぁはぁ…ああ…キツかった……。」

「あの…走っていたんですか?」

「は…はぁ……慣れない事なんてしない方がいいですよね…もうキツくてキツくて!」

「そう…ですか。」

そう言った彼女の方を見るとフードを深く被っており顔は見えなかった。

だが俺は彼女に何らかの違和感を感じ質問する。

「あの…。」

「はい?何でしょうか?」

「貴女…どこかでお会いしてませんか?」

「えっ?今頃気がついたのですか?」

彼女はフードを上げるとなんと隣に越してきた女性だったのである。

「君は!?」

「実は私…寝る前にこうして散歩をしてから寝るのが日課なんですよ…程よい疲れがないと中々寝付けなくて。」

「そうだったんですか?なるほど!」

俺は、安心しそう言うと彼女は続ける。

「実は…ですね…。」

「はい?」

「私…思い切って言いますけど……。」

彼女の頬は赤くなる。

「な…何でしょうか?」

俺は彼女の可愛らしさに思わずドキドキしてきてしまう。

「実は…私……。」

「はい……。」

「昔から沢山ご飯食べる人…ふくよかな人がタイプなんです!!」

「えっ!?」

俺はドキドキが止まらない!

彼女のような素敵な子が俺の様なぽっちゃりというか…が好きとは!!

「そうなんですか?」

「はい…だから貴方に会った時…一目惚れしてしまったんです…だから…あの……も…もし…良かったら。」

「はい。」

「私ともっと仲良くしていただいて…その…貴方が良かったら…私と付き合ってください!!」

「ええーーーーーっ!?」

俺は思わず鼻も口からも色んな物が出た気がする!!

「お…俺で良ければ!こちらこそ!!」

「だから…もう…私の為に痩せようとなんかしないでくださいねっ!」

「もちろん!」

俺達二人はこうして赤い糸が繋がったのだった。

(かかった…わね……これからもっともっと太らせて…。)

ごくり。

(美味しく食べてあげる…クク。)

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