【KAC20234】徒然なるままに~KAC2023④

鶴崎 和明(つるさき かずあき)

第四段 夜の道 世の未知

 何でもかんでもテーマにすれば良いわけではないぞと苦笑しながら、深夜の街を彷徨さまよい歩いてみたのだが、何一つ変わったことは起きなかった。

 北国であればまだ雪も残り、寒さも厳しいのかもしれぬが、当地ではもう上着を羽織らずとも練り歩くことができる。

 もう少し遠くまで足を延ばせば、街頭に照らし出された白梅の天を求める凛とした姿を拝めただろうが、生憎とそのような余力はない。

 帰宅して酒を飲み万年床に潜ると、いつものようにぼんやりと天井を眺めながら夢現ゆめうつつの気分となった。


 そうこうするうちに思い出したのは、先日飲んだ帰りに見かけた、道端でうめききを上げてうずくまる少女らの姿であった。

 はじめは気味の悪さから通り過ぎようとしたのだが、急変ではと思い声をかけてみたところ、

「いや、ピアスを開けようとしてたんです」

と思わぬ返事をもらって面食らってしまった。

 彼女らにとっては何気ないことなのかもしれないが、にとっては衛生上の問題はないのだろうかなどと不安でしかない。

 歪んだ表情を隠そうとマスクをただし、そうですかと精一杯の平生を装って大通りに出たものである。


 高校時代、ある友人が自宅に火を点けたと知らせを受け、善後策を話し合うべく三人で夜の散歩に出たことがある。

 散歩というにはあまりにも気が重く、それでいて月明かりは常より明るく月輪すら見える。

 高校生でできることなどたかが知れてはいるのだが、あるいは、不安を一人では解消できなかっただけなのかもしれない。

 その後、友人の好きな本を貸し出したのであるが、返ってきた時には「検閲済み」の紙が貼られていた。


 不安期待 異変求めし 夜の道 たける男に 猫の遠鳴


 学生時代に九州一周の列車旅をしていたところ、二月の門司港駅で宿なくひと晩を過ごしたことがある。

 凍てつく寒さであったが、緑のコンビニの灯りに安堵したものである。

 それが深夜の散歩の本質なのかもしれない。



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