竜の咆哮

むーが

竜の咆哮

 昼は嫌いだ。人間共は騒がしく俺のステータスにデバフがかかるし、真っ黒な俺の体はどこにいても目立つのだ。


 その点、夜は良い。騒がしくないし俺の本来の力が出せて体は闇に溶け込むから目立たない。


 今日も人間共が寝静まった深夜に自慢の翼を広げて飛び立つ。俺の縄張りの見回りというか基本的に何も起こらないから実質散歩をしているのだが……何かあるな。大事になる前に確認しておかねば。


 罠の可能も考え距離を取り観察をしてみる。あれは反応的に人間か。一体俺の縄張りで何を企んでいるのだ? 日が昇る前に確認せねばなるまい。


 罠も無さげだったので近くに着地する。眠っているのか俺が近付いても身動き一つしない。


 警戒心と言うものがないのか? 少し呆れてしまった。


 体をつついて起こそうと試みるが、なかなか起きない。


 人間の体は脆弱と聞いた。だから傷付けないよう優しくつついてみたのだが。ふむ、どうするべきか悩むな。



「ん……? 追っ手? こんな所にくるはずがないと思っていたんだけど」



寝ぼけているのか大分ふわふわとした言い方だった。そんなのはどうでも良い、早く出ていってもらわねば困るのだからな。



「起きたのか。俺は追っ手などではない。ここを住み家にしているだけなのだが」

「ここを住み家にしているなんて、それこそドラゴンだけって……ひっ! ど、ドラゴン! 私を食べに来たのね!」



ようやくこちらを認識したと思ったら、俺が何故人間を食べる事になったのだ? 訳が分からん。



「どうしてその発想になるのか理解出来ぬな。人間よ、さっさとここから出ていけ。了承するなら無傷で送ってやる」



人間はどうかしたのか黙り込んでしまった。答えを急かしても意味がない。俺も考えがまとまるまで待つ事にする。


 どのくらいの時間が経ったのか分からんがそれなりに長い間人間は黙っていた。



「……これはもしかしたらいけるかもしれないわ!」

「それでどうするつもりだ?」

「ドラゴン、少しお願いしたい事があるの。良いかしら?」

「話だけなら聞いてやる」

「ありがとう。じゃあ話すわね」

「……という事なんだけどお願いできる?」



人間から聞いた話を簡潔に言えば無実なのに罪を着させられ追放されたので仕返しがしたいらしい。



「ああ、良いぞ。やってやる」

「えっ、本当? なら、行きましょう!」



 俺はこういう事は基本しないのだが、興が乗ったのでやる事にした。


 人間を背に乗せて飛び立ち言われた方角に向かう。少しして王都とやらが見えてきた。


 確か一番高い場所で咆哮すれば良いんだったな。その前に背に乗っている人間を軽く保護しておけば問題ないだろう。防音の結界を人間に張る。


 王都の上空を通り一番高い建物のところに着く。軽く息を吸い叫んだ。



「GAAAAAAA!」


俺の声を聴くや否や人間共が集まって騒がしくなる。人間の結界を解て尋ねる。



「これで良かったのか?」

「ええ、これで良いのよ。後はその辺に降りてもらえる? あの人たちに話さないといけない事があるから」

「承知した」



近くの広めの場所に下りて人間を降ろす。



「ごきげんよう。貴方とは会いたくなかったけれど仕返しに来たわ」

「なんであのドラゴンからお前が降りてくるんだ! さてはお前リフィを虐めただけでは飽き足らずドラゴンも従わせたというのか!?」

「相変わらず人の話を聞かない人ね。人の事を虐めている暇は私にはないわ。それにこのドラゴンは協力してくれただけだもの。じゃあね、聞く耳を持たないお馬鹿さん」

「なに!? 私を馬鹿にして今後どうなってもいいのか!?」



人間が背に乗ったので翼を広げて飛び立った。縄張りの森がある方角に向かう。



「あれで良かったのか?」

「別に問題ないわ。元々あっちから追放すると言われたんだもの。今更何が起こっても気にならないわよ」

「そういうものなのか?」

「そういうものなのよ。申し訳ないけど遠くの国に降ろしてほしいの。これ以上貴方に迷惑をかけてられないわ」

「承知した。では行くぞ」



俺の深夜の散歩は後もう少し続きそうだ。




「来たくなったから来たわ!」

「……そうか」



またあの人間が来たが、それはまた別の話だ。

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