深夜の本屋 ~散歩中の出来事(ホラー?)~
タカナシ
第1話「これは私が散歩中に絵本コーナーを通りかかったときのこと――」
深夜になるとこの書店はマンガたちが具現化する不思議な大型書店だ。
あっ、ご挨拶が遅れました。私は編集者をエッセイの具現化、名前を著者名から取って、江津
元の作者に倣って、この不思議な書店をエッセイにしていきたいと思い、今日も店内を観察しています。
今日は珍しく私のお話です。
※
この日、編集者エッセイの私、それとホラーのクマのぬいぐるみ、現代ファンタジーの眼帯少年、編集部マンガの編集長の4人で集まり、季節外れにも怪談を語っていた。
「そこで、ブシャーっ! でブワッ!! って血がドバーッ! って出て、周囲は血みどろのぐちゃぐちゃになってたんだ」
ホラーのぬいぐるみが語る、いまいち要領の得ないスプラッターの話を一同苦笑いしながら聞いていた。
今回のこの怪談も彼が発起人なのだが、いかんせんスプラッターしか話がないようで、マンガならいざ知らず、口で言われても何も怖くなかった。
「さて、次はエッセイの話を聞かせてくれよ。俺たちは創作でしか話せないが、エッセイなら実話とかで怖い話があるんだろ?」
正直、そこまでネタを豊富に持っている訳ではないが、エッセイマンガとして、そこを期待されたら応えない訳にはいかない。
「それじゃあ、これは私がこの書店内を散歩していたときに出来事なんだけど――」
私たちが出歩けるのは当然、深夜。だから深夜に散歩するにはすごく普通の行動で、だから怖い話があるとは限らないのだけど、その日、私は気まぐれに階段を登って3階の小説売り場に。
もちろん、そこには彼らの縄張りがあるから、中には入らず廊下から眺めるだけだ。
小説たちも具現化して、それぞれ話しているみたいだったけど、廊下からじゃ聞こえず、観察のしがいがないな。そろそろ戻ろうかなと思っていたとき声が聞こえて来たんだ。
「いっさつ。にさつ。さんさつ。よんさつ」
その声のする方を見ると、うさぎが廊下の隅でうずくまって何かを数えていたんだ。
その声は教育テレビにでも出てきそうな高い声だったけど、低いテンションがミスマッチで薄気味悪かったのを今でも覚えているよ。
私は、「どうしたんだい?」と声を掛けると、「ごさつ、ろくさつ、ななさつ……」うさぎはそこで数えるのを止めて一冊の絵本をその場に置いた。
その絵本の表紙はうさぎの絵が書かれていて、このうさぎは絵本の具現化だったのだと理解した。
「この絵本、大型書店のここでも一冊しか置かれてないんだ」
そもそもの発行部数の少ない絵本ではそういう事態も少なくないだろう。
「それでね。ぼくの作者さんは、編集者さんからも売れ行き好調って言われたのもあって、書店にないのは売れているせいだと思ったんだ」
なんの話をしているんだ? 私は不思議に思ったが話を遮らず、うさぎの話を最後まで聞くこととした。
「最初は、絵本を知り合いの子供にあげたりしていたんだ。でも、作者の手持ちの絵本はすぐに底をついた。そこで通販サイトの密林であげるように二冊買ったら在庫切れの文字が。それで、作者はいい気になっちゃったんだ。これくらいで売り切れになるなら全部売り切れば、もっとこの絵本が刷られると思って。
今度はカードマンがいるサイトで自分の絵本を購入したの。三冊で売り切れた。
これで完璧だろうと編集からの電話を待ったんだ。でも全然電話は来なくて。
それから数日したら、密林の方に在庫4の文字があったから全部購入して消したの。
次の日にはカードマンの方に在庫5の文字。
いっさつ、にさつ、さんさつ、よんさつ、ごさつ、ろくさつ、ななさつ、はちさつ、きゅうさつ……
「うわぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁっ!!!!」
私の声にぬいぐるみと眼帯が悲鳴をあげる。
「その作者の家には今も大量の絵本が。そして、これだけ売れたのに未だに重版は掛かっていないそうです。果たして、その作者はネットで買うと重版掛かりづらいというのを知っていたのか。はたまた書店にないから、ネットでしか買えなかったのか? いつまでも買える絵本、果たして本当に重版掛かっていなかったのか、編集部が黙っていた可能性は? 深夜の散歩ですからね、真実は闇の中です」
ぬいぐるみと眼帯はお互いに抱きしめ合いながら、ガクガクと震えている。
「や、やめろよ。エッセイ! その怪談は俺らに効く! 特に眼帯なんて他人事じゃないんだからなっ!!」
露骨に怖がる二人に比べ、編集部マンガの編集長は、端っこの方で、気絶していた。
重版とか売り上げに関しての怪談は編集長には刺激が強すぎたみたいだ。それこそ、死活問題だしね。
深夜の本屋 ~散歩中の出来事(ホラー?)~ タカナシ @takanashi30
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