月夜の悪戯

御剣ひかる

今度は離さない

 目を覚ましたら、病院のベッドの上だった。

 よく小説とかアニメとかである状況だけど、まさか自分がそんなことを体験するなんて思ってなかった。


 母さんが大泣きして抱きついて来て、父さんも顔をそらして目元をぬぐってる。


 状況を把握するまで、なんで? ばっかりが頭の上を飛んでいた。


 どうやら、三日前の夜中に近所の公園で倒れてたところを通りがかりの人が見つけてくれて、救急搬送されたらしい。

 日付を確認したら、勉強に行き詰ってふらっと散歩に出た夜だな。


 ……げっ、ってことは、定期テスト受けれてないじゃん。うわー、追試か。

 まぁ仕方ないか。


 医者の診察を受けて、異常なしってなって、明日退院することになった。

 両親が落ち着いて病室を離れて、代わりに友達が見舞いに来た。


「おまえなにやってんだよ」

「なにって言われてもさー。おれもよく判らないよ」

「なんで深夜の公園で倒れてんだよ」


 ほんと、なんでそんなことになったんだろうな。

 おれは散歩に出た時のことを順を追って思い出していった。




 あの日は、次の日のテストの一夜漬けをしてたんだけど、思うように覚えられなくて気分転換にちょっと散歩に出るって家を出たんだった。


 適当にぶらぶらして冷たい風に当たって、なんとなく頭もすっきりしてきた気がしたから家に帰ろうとしたんだ。


 おれの家の近くに公園あるだろ。月明かりが公園を照らしててさ。きれいだなって思ったら。

 ポケットに入れてたスマホが鳴ったんだ。

 同じように勉強で行き詰ったヤツかな? とか思いながらスマホみたら。


 月菜ルナだったんだ。

 そう、去年付き合ってた。


 確かに登録は消してなかったけどさ。なんで? ってパニクったよ。


 とにかく電話に出たんだ。誰かの質の悪い悪戯だったら犯人突き止めてぶっ飛ばしてやろうと思って。

 そしたら。


『月、きれいね』

 って。月菜の声だったんだ。


 ますますビビって。あぁ、だか、うん、だか、そんなことしか言えなかった。


『一緒に散歩、しよ?』


 確かそんなふうに言ってたんじゃないかな。

 その辺りから記憶があいまいなんだ。


 気を失う前に、公園のブランコの方から月菜が歩いて来てる気がして……。

 で、気が付いたら病院のベッドの上だった、って感じ。




「おまえそれ、ヤバくね?」

「確かに、今思い出したけどあの日って彼女の命日だったんだ」

「命日忘れてて怒ってるとか」

「けど、誰かのいたずらかもしれないし」

「声、彼女だったんだろ? とにかくお祓いとかうけといたら?」

「お祓いうけるなら、それより前に墓参りじゃね?」


 おれらはそんな話をしてて気づかなかった。

 サイレントモードのスマホに着信してたのを。



『忘れないように、今度はしっかりつかんで、離さないからね』



(了)

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