真夜中のファッションショー

チャーハン

真夜中のファッションショー

 私がその人物と出会ったのは仕事帰りに立ち寄った公園だった。

 人気の無い公園まで歩き、ブランコにゆらゆら揺られる。珈琲缶を飲み、たそがれるのが私の日課だった。ある日、何時もの様に珈琲を飲んでいると入口から一人の女性が入ってきた。黒翡翠の様に輝く長髪と端正な顔立ちを持った女性だった。


 女性は公園に入るとハイヒールの音を静かな公園に響かせる。

 黒色のトップスを纏った女性は一定の距離まで歩くと公園から出た。


 偶然の出会いだった。完全な赤の他人だ。

 それなのに、私は公園に入り浸るようになった。


 深夜帯の公園の中、何時もの様に珈琲を飲みながら待つ。そして、現れる女性の服や髪形に注目しつつ静かに眺めるのだ。傍から見れば狂人や変人と思われるかもしれないが、当時の私は彼女を見ることが生き甲斐だった。


 一月が経った。私は何時もの様に珈琲を飲みつつブランコに揺られている。

 私は静かに珈琲を飲みつつ女性が訪れるのを待つ。

 しかし、女性が来ることは無かった。


 珍しいなと思いつつ私は次の日も公園に向かう。今日こそと思いつつ、珈琲を飲みながらブランコに揺られた。しかし彼女は来なかった。


 次の日も、次の日も。彼女は来なかった。見ず知らずの赤の他人だが、日常的に見てきた人が来なくなるのは寂しいものだ。


 物悲しさを感じつつ、家に帰宅する。

 何時もの様にニュース番組を付けると一つの事件が目に入る。事件は、ファッションショーに出る予定だった女性が殺されたという物だった。殺害日は、私が最後に見た日だった。そこで見た顔に、私は目を見開いた。


 被害者が公園で見ていた女性だったからだ。

 続いてニュースで映った服を見て、私は更に驚いた。

 その服達は、私が公園で見た時に彼女が来ていた服だった。


 もしかしたら、私が声をかければ運命は変わったのかもしれない。

 そう思いつつ、私は苦いコーヒーを飲む。塩味が口に染み渡った。

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真夜中のファッションショー チャーハン @tya-hantabero

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