夜を歩く。最後の夜を。【KAC20234 お題「深夜の散歩で起きた出来事」】
蓮乗十互
夜を歩く。最後の夜を。
明日、この街を離れる。夕食の時に、おばあちゃんは笑いながら泣いた。
「四年も一緒に
眠れず、夜中にそっと家を出た。独りスニーカーで歩き出す。
寄宿したおばあちゃんの家は
神奈川出身の
暗い川筋からバイパスの交差点を越え、山の麓を歩いて、橋を渡る。
おじいちゃんが心筋梗塞で亡くなったのは大学一年生の冬。幸が倒れているおじいちゃんを見つけ、救急車を呼んだ。
四十九日の時に母さんがいった。
「幸がおばあちゃんの側にいてくれて、本当に良かった」
細い水路を辿ると、住宅地、オフィス街から歴史地区へ続く。
旧居前に、見覚えのない古びた木造の建物。「
店の奥に店主がいた。よく識る作家の顔をしていた。
「この街で経験したことは、あなたを生涯支えるよ」
翌朝。松映駅ホームに作家と同じ名の特急が到着した。乗り込む前に、おばあちゃんを抱きしめた。ぎゅっ、と腕に力を込めて。
夜を歩く。最後の夜を。【KAC20234 お題「深夜の散歩で起きた出来事」】 蓮乗十互 @Renjo_Jugo
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