真夜中の散歩は、悲しかった。
夕日ゆうや
わしの家はどこかのう?
夜中に目を覚ました。
見渡すが見慣れない天井だ。
わしがどこの誰かも分からないが、記憶にある家とは違って見える。
幸い監禁とかではないらしい。
いや参った。まさか、他人の家で寝てしまうなんて。
しかし、あんな一軒家の友達いたかのう。
わしは真夜中の散歩をしていた。
深夜の散歩で起きた出来事と言えば、こんな状態のことだろう。
自宅はどこかのう。
わしは探し回った。
ちかくにある公園にたどり着くと、ベンチで一休み。
近くにある自販機でお茶でも飲もうと思ったが金がない。
そんなとき、こちらを見つけて口を手で覆う老婆がいた。
「すまぬが、泉市佐織町二丁目三番地はどこかのう?」
老婆に尋ねると、崩れ落ちてしまう老婆。
「その街はとっくになくなっているの。おじいちゃんの故郷は」
「はて。おじいちゃん?」
「そうよ。あなたは
「わしの名前を知っている? 初めまして。伊沢彦星です」
「……はい。私は伊沢
織姫さんは目尻にボロボロと涙をためてこぼしていく。
そんな顔をしないでくれ。
「それで、わしの家に行きたいのじゃが……」
「あなたの家はこっちよ」
織姫さんはなんとわしの家を知っているという。
歩き出すと、そこは最初にいた一軒家ではないか。
「わし、ここから出てきた。なんでいるのか分からないのじゃ」
わしの家は田舎で、田んぼや畑に囲まれていた。
かやぶき屋根の、囲炉裏を使った古屋だ。
お父さんとお母さんが育てた米で、野菜で育った。猟師をやっているご近所さんからたまに頂く熊肉や鹿肉がおいしかった。
「そんな実家に帰りたいんじゃが……」
織姫さんは悲しそうに目を伏せる。
「そう。あなたの中ではまだ両親が生きているのね……」
織姫さんはまたボロボロと泣き出してしまった。
「泣かないで。織姫さん」
わしは織姫さんの涙を拭う。
彼は覚えていない。
これまで数十年の結婚生活を。
自分に二人の息子がいることを――。
真夜中の散歩は、悲しかった。 夕日ゆうや @PT03wing
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