宏樹君の休日4

代官坂のぞむ

第4話

 本屋から飛び出した少女は、リュックを抱え、宏樹の腕をつかんだまま、ファーストフード店が並ぶ通りを駆け抜けて行く。

「もっと速く走って!」

「無理だって」

 少女は、歩行者用信号が赤に変わったばかりの横断歩道に飛び出し、通りを渡った楽器屋の角から細い路地に駆け込むと、小さなビルの奥にある店に飛び込んでドアを閉めた。灯りのついていない店内は薄暗く、他には誰もいない。


 少女は宏樹の腕を離し、店の奥の椅子に座った。

「はあ、はあ。あ、あの男は何者だ? そのリュックに入っているのは何なんだ?」

 息を切らした宏樹の質問に、少女は驚いた表情になった。

「え? 受け取りに来た人じゃないの? なんでついてきたの?」

「いや、君が引っ張ってきたんだろ!」

「えー! 人違いってこと?」

 少女は頭を抱えた。


「じゃ、なんでキーワードを知ってて、奴の足止め手伝ってくれたの?」

「手伝ってない!」

 少女は口をとがらせた。

「いいタックルだったよ。私一人じゃ、本棚は倒せなかったし」

「そもそも、君は何者なんだ?」

「この店の雇われ店長」

「え? 中学生じゃないのか?」

 少女は、ふうっとため息をついた。

「童顔だから、この仕事は天職って言われるけど、もう二十歳はたちだし。ここはJKガールズバーで、このセーラー服はお仕事の制服」

 宏樹は、あんぐりと口を開けた。


「何をしてたんですか?」

 年上と聞いて、宏樹は口調を改めた。

「ここまで巻き込んじゃったら、ちゃんと話しとかないとね。この件の依頼が来たのは、先々週の土曜日の夜」

「……」

「夜の十二時に店を閉めてから、代々木公園の方に散歩に行ったの。夜のケヤキ並木の鬱蒼とした雰囲気が好きだから」

 宏樹は、深夜に女性一人で散歩なんてと思ったが、さっきの本屋での身のこなしを思い出して首を振った。見かけによらず凄腕なのかもしれない。


「そこで、あの人が声をかけてきたのよ。頼みたい仕事があるって」

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宏樹君の休日4 代官坂のぞむ @daikanzaka_nozomu

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