中々告らない中長さん
ナツメ サタケ
クラスメイト中長さんの電話
ふと、思い立ち家を出た。
深夜0時を回る時間帯。 人々が眠り、冷たい夜風と虫の合唱だけが世界を包んでいる。
行く宛てもなく、ただ小一時間程散歩しようと思った。
「……はぁ、はぁ、今日、今日こそっ」
暫く歩いているとそんな声が前から聞こえてくる。
あれは同じクラスの〈
どうやら彼女も散歩らしい。 こんな時間帯に女子高生が夜道を歩くのは少し問題だが、田舎町だから大丈夫か。
私服のパーカーとスマホを片手に歩きながら何か呟いている。
かなり集中しているのか僕の存在には気付いていなようだ。
すると、何かを決心したかのようにスマホを操作する。
スピーカーモードにして聞こえてくる音から誰かに電話を掛けたようだ。
『もしもし、中長? どうした?』
「も、もしもし、吉田? こんな時間ごめんね」
電話の相手は同じクラスの〈
「えっと、その、電話した、のはね……その」
『……うん』
もじもじと声と身体を震わせる中長さん。
この瞬間僕は知った。
これ、告白じゃないか。
恋愛にそれほど関心が無い僕でも知っている。
中長さんは吉田君に想いを寄せている。
教室でも仲が良い様子を見ており、二人は中学からの友達らしい。
人の恋路地を聞くのはよろしくないが、この二人のは気になってしまう。
『夫婦』なんてからかわれる程に仲が良いから、いつになったら付き合うのかクラスでも話題になっている。
「よ、吉田に、き、聞いたいことが」
『うん、なんだ?』
「その、吉田って、好きな人、とかいる?」
一瞬、言葉に詰まる吉田君。
「いやね、最近さ、友達が付き合う人多くてさ、吉田とかも、どぅなのかなぁ、って」
『……な、中長はどうなんだ? いるのか?』
「ぇえ? 私? わ、私は……いる、かな」
それは勿論、吉田君のことだろう。
『……そうか、俺もいるよ』
それは中長さんのことだ。
二人は両片想い。 誰も二人には言わないが、学校でも焦ったい雰囲気で過ごしている。
「……そうなんだ……あの、今日、吉田に言いたい事があってさっ!」
お、コレは? もしや……?
『う、うん……』
「……あの、わ、私……そ、の、吉田の事……」
彼女の中で一生長い一秒が流れているのだろう。
何度も練習したその言葉が喉まで出かかっている。
沈黙が流れる。
「……す、……すき……」
おぉぉ?
「……好きな人と付き合えるよう応援してるからっ!」
っなぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
『え、あ、ありがと。 俺も中長が好きな人と付き合うの応援してるよ』
「う、うん……ありがと……それじゃ、また学校で」
『うん、またな、おやすみ』
「おやすみ」
そう言って電話を終えると、中長さんはその場に
「なぁぁぁぁぁっ! なんで言えないのよおぉぉぉぉ てか吉田好きな人いるのっ!? だれだれだれだれなのぉぉぉぉ!?」
どうやら今回も中長さんは告白出来なかったらしい。
僕は彼女に見つからないよう分かれ道で別の方向を歩きだした。
するとスマホに一通のメッセージが届く。
差出人の名は『吉田』と表記されている。
『なぁなぁ! 今、中長から電話あったんだけどさ、なんか中長好きな人いるらしいんだけど!? 誰だか知ってる!? 知ってるなら教えてくれ! 頼む!』
『さぁ、知らないな』
そう送ってスマホを閉じて散歩を再開した。
中々告らない中長さん ナツメ サタケ @satake01
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