深夜の散歩で起きた大事件をお話しします。

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

夜10時の散歩者

 最近の私の日課は夜遅くから仕事を終えて散歩をする事。

 ポケットにはハンカチとティッシュ、携帯と千円札だけ入れて、徒歩で目的地もキメズニ気ままに歩く。 とは言っても、夜遅くに散歩をする際には幾つかルールがある。

1.深夜零時前に家に帰って来る事。

2.美味しそうなスイーツを見つけたら二つ買って来る事。

3.夜道なので十分に気を付ける事。

以上三点だ。

 「じゃぁ、行ってきます。」

 午後10時。仕事は絶好調だったから何とかなった。さぁ、ここからはただの散歩のお時間だ。

 この時の私は未だ、この散歩が大事件を呼び起こすとは思ってもみなかった。



 俺の名前はルイス=プレゾナ三世、あくどい連中に囚われたお宝を自由にしてあげるのがお仕事の泥棒さんだ。

 今回俺が盗み出したのは世界各国の紙幣の原図が中に隠された人工ダイヤ『魔天楼のきざはし』。

 これが悪い奴の手に渡ったら偽札は刷り放題使い放題羨まし……大変な事になっちまう。

 という事で取引現場に颯爽乗り込んだものの、爆弾を使ったヤツのせいで肝心のダイヤがアタッシュケースごと吹っ飛んじまった。

 さーて、どっちが先に見つけるかの一世一代の大勝負。皆、見てくれよな。



 「何だこれ?」

 午後10時25分。近くの河原へと歩き出した私の目の前にアタッシュケースが落っこちて来た。

 なんか、凄いすすで汚れてるし、歪んでるし、年季が入ってる?

 「……、……。……?」

 辺りを見回しても人1人見えない。サイレンが鳴ってはいるけど、音は遠くで鳴っていて、この辺りには野次馬一人いない。

 ガチャ

 手に取ると矢鱈軽かったので空かと思って開けたけど、違った。

 中にはダイヤモンドが一つ。透明なケースに大事そうに入っていた。

 「んー…………一応交番かな?」

 ダイヤモンドが入ってはいた。私の拳くらいの大きさはあった。けど、色は黄ばんでいるし、石の中には肉眼でラクラク解るくらいの大きな傷が幾つも入っていた。

 大きいといっても、これじゃ多分大した価値は無いだろう。

 ただ、それはそれとして、こういうのは金銭的価値が全てじゃない。

 ケースに大事そうに入ってるあたり、大事なものなのだろう。

 煤だらけであちこち歪んでいるこの使い込まれたアタッシュケースを見る限り、宝石掘りの仕事をして初めて掘り出した原石だとか、これに足をぶつけて転んで危機一髪事故を回避した幸運の石だとか、未来の伴侶が悪いヤツに捕まった時にこれで咄嗟に殴って危機を脱した鈍器だとか、そういう理由があるかもしれない。

 そうなると、私に価値は計り知れない。

 「交番か……悪くないか。」

 この近くの交番の場所を知らない訳じゃないが、あの辺には道路と木と広い場所しかない。ぶっちゃけ何も無い。

 だけど、この時間に私は行った事が無かった。

 一寸、惹かれた。



 「クッソー、お宝は何処行った?」

 爆発の方向は確かにこっちだった。河原だから直ぐに見つかると思ったんだが、どこにもない。

 連中に見つかると厄介だし、お巡りさんに見付かるともっと面倒臭い。

 どーしたもーんかねー?



 「おまわりさーん?おとしものー!」

 11時20分。交番に辿り着きはしたものの、残念パトロール中。

 待っていたいところだけど、そこそこ門限ギリギリ。という事で、置いてあったメモに落とし物の旨を書きつけて出ようとして、衝撃の事実を目にした。


 それは、交番の前の道路に居た。

 真っ黒なスーツに真っ黒なネクタイ、真っ黒なサングラスをかけた怪しげな男。

 その男は私に気付くと懐からあるものを取り出した……。






 「クレープ・シュークリーム・ケーキが全品半額セールだったの⁉」

 11時55分。門限ギリギリに帰ってきたので妹のヘソは曲がりかけていたが、二千円分の半額スイーツを妹の前に並べたところ、不機嫌は吹き飛んだ。

 「そう、あのめっちゃ怪しいけどめっちゃおいしいで有名なエージェントスイーツの出張販売に出くわした!」

 バナナクレープ、イチゴクレープ、チョコクレープ、ココアクッキークレープ、みかんクレープ、クッキーシュー、パイシュー、紅茶シュー、コーヒーシュー、チョコシュー、モンブラン、ショートケーキ、抹茶ロールケーキ、ガトーショコラ……目の前のテーブルは二個ずつ並んだスイーツで埋め尽くされていた。

 「お姉ちゃん、ナイス!真夜中散歩っていいね!」

 「でっしょう我が妹!」

 こうして、私達姉妹は幸せスイーツタイムを存分に楽しんだのでした。



 大事件は、ここから始まった。

 「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 翌日、贋金の原版が発見されたニュースがテレビから流れる横で体重計が凄まじい数字現実を私達に突き付けた。

 散歩改め、ウォーキングの日々が、始まった。

 これが私達の、深夜の散歩で起きた出来事。

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深夜の散歩で起きた大事件をお話しします。 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

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