死神の西神君と天然彼女の始まらない恋ごっこ
花月夜れん
◇
オレは死神だ。
今、もうすぐ死を迎えようとしてる彼女、
「お前の願いを一つ叶えてやろう!」
死神お仕事始め。第一回は特別なので死ぬ予定の人を満足させてから死の国に導きまーす!
そう説明を受けたオレは初仕事の相手に願い事を聞いた。
「ふ、ふ……不審者ー!!」
まあ、そうなるよな。オレは結芽が落ち着くのを待つ。
控えめというか、叫び慣れてない小さめの叫び。だけど、しっかり誰かに届いていたようだ。パタパタと誰かが部屋に向かってきた。
「結芽、どうしたの!? 大丈夫!?」
「お母さん!」
「また怖い夢を見たの?」
結芽はオレを素通りしていった母親に抱きしめられ、口と目を全開にしながら止まっていた。
「大丈夫よ。大丈夫。すぐ治るから」
「……うん。ごめんね。お母さん、変な人がいる夢を見たみたい。大丈夫だよ。そうだね、はやく治りたいな」
母親の体をポンポンと撫でてやる結芽。当の母親はうっすらと涙を浮かべていた。
母親が出ていくと結芽は布団に被りもぐりこんだ。
「おい、オレの事無視する気か!?」
「だって、あなた夢でしょう?」
「いーや、違うね。オレは、死神。君を迎えに来た」
「…………」
もぞりと布団の山が動いた。
「私、死んじゃうの?」
「あぁ、だけど喜ぶがいい。オレは初仕事の死神だからお前を満足させてから死の国に連れて行かなきゃならない決まりがあるんだ」
「え……?」
顔だけ出してこちらをうかがう結芽。年齢よりも幼く見える彼女は病気だった。
「……お願い?」
「あぁ、なんでもいいぞ。願いを増やせやら長生きしたいって願い以外ならな。まあ一個で満足出来るとは思ってないから数個くらいなら叶えてやる。さぁ、言え」
「…………」
「む、考える時間が必要か?」
結芽は目を横に泳がせながら少し考えるそぶりをしていた。
「こ………………」
「こ?」
「…………ぃ……………」
「い?」
顔を真っ赤にしながら結芽はまた布団を被ってしまった。
「おーい。こといって何だよ。ちゃんと言ってくれぇ」
「あの、やっぱりいいです」
「いや、よくないから。オレが仕事終われないから、な?」
「あ、あぅ。その、あの…………」
布団が喋っているシュールな光景を見ながらオレは結芽の言葉を待った。
「恋してみたいです」
「…………え?」
「あの、だから、その。恋がしてみたいです」
「こいってこの?」
オレは死神道具からスマホを取り出し鯉の写真を見せる。便利だろ。死神もスマホ持つ時代なんだぜ。
「違います。それじゃないです。ラブです。恋です。お互い大好き同士で恋がしたいです」
死神初仕事のオレに課せられた願い事。それは自分もしたことがない『恋』だった。
オレはもともと人間だった。高校生の
人手不足で死神が足りないから、死神業務を何回かこなしたら天国に行かせてあげるね、と言われ仕方がなく死神のお仕事を始めたのだ。
「恋……恋だな。誰か好きな人がいるのか?」
「…………いません。病気のせいで家から出られないから」
「…………そうだったな」
結芽は病死する。死神の資料に載っている確定事項だ。
「よし、なら学校にいけるようにしてやる!」
「え、え、え?」
「明日から、満足する日までお前の病気をなくしてやる。明日の朝、楽しみにしていろ!」
そう言い残しオレは準備にかかった。
◇
「ありがとう。死神さん!! すごいよ、私学校に行けるって!!」
「そうか、良かったな。よし、学校でステキな恋を見つけてこい!!」
「あの、その事なんですけど」
「ん、なんだ?」
待て待て。準備だいぶ頑張ったんだぞ? 今さら無理そうとか言うなよ?
「死神さんも一緒に学校にきてくれませんか!?」
「へ? 何で?」
「だって、だって、私友達もいないのにいきなり学校に行くなんて無理ですよ。怖いじゃないですか……。それで恋なんてとてもとても」
なんだ、そういうことか。なら仕方がない。オレも全力で付き合ってやろう。なんせ、オレの天国行きがかかってるからな。
「わかった。明日からだったよな」
「はいっ」
オレはまた用意に走った。
◇
「転校生の永美結芽さんと西神雄二君だ」
「永美結芽です。よろしくお願いします」
「西神です。よろしく」
「「「よろしくお願いします」」」
昼休み、オレと結芽はこそこそと二人で話せそうな場所に向かった。
「すごいね。一緒にいって欲しいとは言ったけど、まさか一緒に学校に通えるなんて。いったいどうやったの? 死神さん」
「あー、これだ。死神道具。これがあれば、誰の記憶にも残らず、そこにいる人間のようにとけこむことができる」
「すごいねぇ!」
「それよりも、どうだ? いいヤツは見つかりそうか?」
「うーん……」
「結芽が恋してくれないと、オレが仕事終わらないんだが」
「そう言われても……」
結芽は言っていた。お互い好きあってる恋がしたいと。ならはやいとこ告白して、くっつけなければならない。恋愛ゼロ経験のオレには荷が重いが、頑張るしかない。
結芽が首を軽く左右にひねりながら揺れている。クラスの中にそれなりにカッコいいヤツはいただろ。そいつらを進めてみるか?
「死神さんより、カッコいい人がいませんでした。どうしましょうか」
「は?……オレ?」
「はい。だって、結芽を元気にしてくれて怖いって言ったら学校についてきてくれて、いっぱいいっぱいありがとうなんですよ。めちゃくちゃカッコいいですよ。これ以上カッコいい人を探すのは至難の業そうです」
「――――っかじゃねーの!? いるだろ、あっちにもこっちにも良さそうなやつ」
「うーん、至難の業です」
じぃっと見てくる結芽の顔。初めてまっすぐと向き合った。
「しょ、しょうがない。オレがいいヤツを見つけてやるのを手伝ってやる」
「死神さんにそんなことまで!?」
「オレの初仕事の成否がかかってるんだ! ほら、さっさと弁当食べて教室戻るぞ」
「はーい。えっと西神君。ありがとうね」
結芽の笑顔が可愛かった。見ていると顔の温度が上がってしまいそうだ。
オレは初めての気持ちに戸惑ってしまう。
仕事だ、仕事。首をふり、オレは弁当を口いっぱいかきこんだ。
◇
「好きです。付き合って下さい!!」
オレはよくやったと小さくガッツポーズをした。結芽に告白してくれたのはクラスのいいヤツオレ的ナンバーワン
「……ごめんね」
結芽の言葉にオレがショックを受ける。
急いで彼女と二人きりになる。オレはすぐ秋人に好きだって伝えるように説得を始めた。
「何でだよ!! めちゃくちゃ良いやつなのに」
結芽は首をふるだけだ。何がダメなんだ。顔だって性格だっていい感じのヤツなのに。絶対にいい恋ができるだろうに。
「しにが――西神君。私、言ったよ。大好き同士でって。私が好きなのは――」
「待ってろ。次の候補連れてきてやる!!」
オレは結芽が必死に伝えようとしている言葉から逃げ出した。ダメだ。これ以上、好きになっちゃダメだ。オレが結芽を助けたのは自分の為だけで、願いを叶えて仕事終わらせたいってだけで……。そんな気持ちで近付いたオレが結芽の最初で最後の恋だなんて、ありえないだろう。
◇
「死神さん?」
オレは彼女の前から姿を消した。
願いを叶えるなんて無理だと思ったから。彼女を死の国に連れて行きたくないから。
「死神初仕事失敗しました」
「そうか、ならお前は地獄行きだな」
「そうですか」
死神のオフィスで上司に報告し、オレは死の国の門へと向かった。
天国行き、地獄行き、たくさんの門がある。どれに入ってもいいのだが正解にたどり着くには死神からもらう証が必要なのだ。
「さらばだ、西神君。君には期待していたのに」
「いやいや、上司死神さん、ほとんど会ったばかりでしょう」
「そうだな」
オレは門を開き、落ちた。いや、落とされた。上司が後ろからトンッと押したのだ。
「まあ、いっか」
地獄だろうと、行き先が決まってしまえばとオレは思った。結芽はあれから他の死神が行ったのだろうか。二回目以降のヤツなら願い事なんて聞かないから、すぐにでも死の国行きだろうな。
もう少し、恋ごっこ付き合ってあげればよかった――。
「ごめんな…………」
オレが謝ったあと、上から声がした。
「――――人間としての生をまっとうする地獄だ」
◇
「雄二!!!!」
オレは目を覚ました。いつも怒ってばっかりの母さんが涙をこぼしている。どうやら交通事故にあったらしい。ずっと意識が戻らなかったそうだ。
オレは数ヶ月のリハビリを経て学校に戻れることになった。
「今日から久しぶりに復帰する西神雄二です!!」
久しぶりのクラスメイト達。オレがいない間に面子が一人増えていた。
その子はオレのところまでやってきて、クラスメイトの前で抱きついてきた。
「死神さんっ!!」
「いや、オレ西神っつーかキミ誰だよ!?」
驚いたけど、あまりの必死さと泣きそうな顔にオレはたじろぐ事しか出来なかった。
クラスのやつらがいろいろ言ってくるがオレはそれらを手で追いやり、抱きついてきた女の子をゆっくりと引きはがした。
「そうだった。西神君でした。あの、西神君。私と恋してくれませんか? 私、やっぱりあなた以外考えられません」
いや、オレ初対面だよね。
キミみたいな可愛い子から告白されるなんて、オレ自身びっくりなんだが。しかも、これオレがオッケーならオレ史上初恋ってことじゃねーか!
いやいや、初対面で死神さんとか呼んでくる変なヤツだぞ?
でも、……やっぱり結芽は可愛いな。
オレは名前の知らない女の子を勝手に結芽と脳内で呼んでいた。
死神の西神君と天然彼女の始まらない恋ごっこ 花月夜れん @kumizurenka
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