サビス 花冠とドラジェ
「ねぇアンタ、頭がおかしくなったの?」
「そうだよ姉ちゃん、おとぎの国って」
「落ち着いてお母さんもアスカも」
「でもねアスナ、アスミったら建物の名前でもないって言うじゃない」
「も~……いいからついてきて!!」
「お父さん、行きますよ!いつまで泣いてるんですか!!」
「まだ始まってもないのに……」
家族を引き連れて、魔法茶店へ向かう。
「なんだ、やっぱお店の名前じゃん」
「CLOSEだって、閉まってるよ」
「お姉ちゃん、お店貸し切ったの?」
「いいからついてくる!」
CLOSEの扉を開け、鍵を閉める。
その鍵を見せつけるようにして、ポケットへ。
裏口を開け、家族を中へ促す。
「近道にわざわざ職場使ったの?」
「ねえ、向こう路地裏よ?」
「いいから!!」
全員の背中を押し、ラク・ラクリマを先導する。
「え~、タナカ家御一行様~アスミンの結婚式場までご案内いたしまぁす」
「だ、誰……?この人雇ったの?」
「ちがうよ~アスミンのともだち!結婚式っていうから仕事サボっちった!」
「我々魂のゴンドリエは~」
「さ、乗って」
ゴンドラは賑やかに白を進み、やがて我が家のようなおとぎの景色を覗かせる。
「てか姉ちゃんなんで私服なの?やべくね?」
「アスカ知らないの?ドレスは式場で着替えるのよ」
「しらね~だって俺結婚したことねーしドレスきねーし」
いつ話しても頭の痛くなる弟だ。
お年玉減らしちゃおうかな。
「あ、アスミ、さんのご家族、ですね」
「あら、あなたがお婿さんのアルスくんね?緊張しちゃって……」
「はいっ、そ、そうです!!」
「ちげぇわ」
アンブラをどつき、白いタキシードを着たアルスが現れる。
「え、じゃああなたは誰なの?」と聞かれ、アンブラはでへへと気持ち悪く笑った。家族も引いている。気を取り直して紹介する。
「アスナとアスカは何回か会ったことあるもんね?」
「お菓子くれる兄ちゃんだ!」
「お兄ちゃんになるんだ!」
「なんと、お姉さんが増えます」
「えー!すごーい!!」
こどもの相手が得意なアルスが、弟妹の相手をしている。
「アスミちゃん!」
「お姫様!」
「おひめさま?」
「アスミちゃんのご家族ですね?わたくし、ティタニアと申します」
「妖精の国のお姫様なの」
両親は驚きのあまりか、ずっと口をあんぐり開けたままだ。
似たもの夫婦がここにもいたか。
「ティタニア!待たせた!僕のもやっと編みあがったよ」
「オーベロン、遅いわ……こちら、アスミちゃんのご家族」
「ご紹介にあずかった通りです、お見知りおきを」
「妖精の国の王子様なの」
あんぐりのまま固まっている。
「アスミさ~~~ん」
「あ、蜜蜂さんたち!」
「はちみつでせっけんをつくりました!つかってください!」
「ありがとう……あ、こちら同僚の蜜蜂さん方」
「ど、同僚の……みつ、ばち」
「アスミ、ちょっと休ませておくれ……お父さん、涙も引っ込んじゃった」
◆
「まあ、そういう訳で色々大変だったんだけど……今はアルスもいるし、幸せよ」
「………………」
「……アスミがいいなら、お母さんおとぎの国に嫁いでも構わないけど」
「お父さんだってアスミがいいならいいし……たまには帰って来れるんだろ?」
「それも簡単にね」
そこで、両親はやっと安心した笑顔を見せてくれた。
「じゃあ、はい、お父さんもお母さんも、箱どうぞ」
「……箱?なんの?」
「空っぽだぞ?」
わたしはアルスと顔を見合わせて笑った。
「姉ちゃん!こいつ飛んでる!」
「こいつじゃねえし!パックだし!」
「妖精さんだぁ~」
「そうだし妖精さんだし」
「わたしは着替えてくるから、そのパックと遊んでて」
目を閉じると、たくさんの元気な声が聞こえてくる。
セプテムジカの歌や演奏、氷の国のジェラート屋台、春の国の花の屋台。
今まで旅してきたみんなが、一同に会してくれた。
アルスに手を引かれ、わたしはユメミさんの魔法でお花をちりばめたドレスに着替えた。いい香りがする。
「一瞬だ!」
「こちらユメミさん、勤め先のいちばんえらいひと」
「あ、これはこれは娘がお世話になって……」
「お父さん、オフィスワーカー魂丸出し……」
ドラジェはたくさん用意した。
「いい?合図するよ」
「せぇ、の!」
数えきれない幸せが空に舞った。
アヤカシユメミの夢幻茶店 海良いろ @999_rosa
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