20杯目 おとぎの国の魔法茶店
「さ、アルスも戻ってきたことですし……」
「……え、ユメミさんやめちゃうの?」
「まさか!」
皆を茶店に集めて「大事な話がある」と言うものだからてっきり。
でも、そうじゃないなら一体何の話だろうか。
アルスの復帰祝いはもうしたし、それぞれのお仕事お疲れ様パーティーもした。
わたしたちが首を傾げていると、ユメミさんはコホン、とひとつ咳ばらいをして高らかに宣言した。
「茶店を改装・増築するですよ~!!」
あちこちから歓声が上がる。
ユメミさんはテキパキと指示を出しているが、驚きでそれどころじゃない。
「アニムス・オーウォから黄色、ピンク、白い牛のたまごを……」
「アルス?」
「なぁに?アスミ」
「カスタードを出す牛って……」
「うん、いるよ、ほんとに」
わたしは深く深くため息をつき、以前笑ったことを謝罪した。
「いいよ、仕方ないさ」
「そうね、仕方ないわ……わたし、あなたに聞かなきゃいけないことがい~っぱいあるみたいだし」
「えっ……」
「わたし聞かれちゃったのよ」
「なにを?」
「お母さんに、恋人が死んだんじゃなかったのかって」
「あ~……」
「わたしが指輪を増やして実家を訪れるものだから弟と妹にも聞かれたわ、勘違いだったなんて言えないし、あなたがどうにかしてくれるんでしょうね!」
店内はわいわいがやがやと賑わっている。
「アスミちゃん!」
「あ、お姫様」
「あのね、もしアルスくんと結婚式を挙げるなら、私たち、花冠を編むわ!」
「ほんと?嬉しい!」
「……アルス、聞いた?」
「聞いたよ……」
仕方ないな、とアルスが笑い、王子様もそれに続く。
◆
「大通りの喫茶店……最近リニューアルオープンしたようで、以前よりずっとお客さんが増えているっていう」
「コンセプトっていうのかな、たまに妖精やお姫様とかの格好した店員さんがいてね……なんでも魔法のお茶を提供してくれるかもしれないんだって」
「魔法ってなによ?」
「わかんないんだけど、そういうウワサ」
心の中、鼻で笑った。
こっちはキーボードをカタカタを打ちまくり、仕事に追われてるっていうのに。
「……魔法か、あったらいいよな、そんなの」
「部長も行きましょうよ!」
「あ、え、声に出てた?」
「いいから行きましょうって!」
腕を引かれ、強制的にお茶をすることになってしまった。
「え~っと、なんだっけお店の名前……」
「知らないのか?」
「チラシもらったんで……あ、あった!」
おとぎの国の魔法茶店。
「さ、入りましょ!」
◆
「この、メニューの下に書かれてるのって……」
「魔法の効能ですよ」
「魔法ねえ……」
「まあまあ部長、フンイキですよ!ここ、料理とかお菓子も美味しいんですって!」
数人で来店したお客さんが、メニューを見てあーでもないこーでもないと盛り上がっている。アルスがすっと寄ってきて、耳打ちした。
「メニュー名、変えなくても良かったんじゃない?気に入ってたんだけどな……」
「人間のお客さんにはそのほうがいいの!」
「すみませ~ん、自家製蜂蜜2瓶くださ~い」
「は~い、ただいま!」
魔法茶店はユメミさんと、アルスと、わたしがメインに、おとぎの国の住人がたまに手伝ってくれている。その中には……。
「ほらちゃきちゃき働くですよ罪滅ぼし!!」
「わ、わかってるよ……あ、アスミと目が合った、えへへ……」
「で、魔法が必要なのはどのお客さんだ?」
「ちっ……あそこの、眼鏡のおっさん」
「了解」
反省を終えたのか、アンブラが手伝ってくれるようになった。
魔法が必要な人を見極めてくれている。
「へ~、部長のも美味しそうっすね!」
「それなんてやつです?」
「え~っと、休息と安心のラベンダーティー、らしいな」
おとぎの国の魔法茶店は、幽世を通しておとぎの住民、人間たち、どんなお客さんでも大歓迎で営業中です!
◆
「また野良猫よ」
「最近多いわねぇ」
ビルの隙間で、段ボールに入れられた猫がにゃあにゃあ鳴いていた。
白い猫、黒い猫、茶色い猫。
そして、にんまり笑う、他より大きな、しましまの猫。
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