19杯目 誓いのダージリン
わたしたちが訪れたのは、ルシオラ・リートレという海岸だった。
蛍が飛んでいると思ったが、虫ではないらしい。
「炎の氷が発する光さ」
「……そう」
何度聞いても意味が解らないが、綺麗だからまあいいや。
いくつか闇を乗り越えてきた今、純粋な夜が訪れようとしていた。
太陽を水平線の向こうへ見送り、ふたりで仄かな灯りを眺める。
アルスは肉体を手放し、死者の国を通ってしまった。
だからもう、消えてなくなるか、転生するしか道は残されていない。
そんなの、一択だ。
「お茶を持ってきたんだ」
「お茶で思い出した」
「なにを…………まさか、それ……クソッ、姉さんか!自分で渡したかったのに」
掲げて見せたわたしの左手薬指に光るもの。
彼が渡そうとして渡せなかったもの。
わたしとユメミさんを、ひいてはおとぎの国とを出会わせたもの。
「…………実はそれ、試作品なんだ」
「え、なんですって!?」
「今持ってるのを本当にしてほしいんだけど……」
「……でもこれも大事なの、今まで一緒に過ごしてきた相棒だもの」
それに今は、お互いに触れられない。
彼が指輪の小箱を砂浜に置き、わたしがそれを取った。
「明るい、みどりの宝石……」
「きみの瞳と同じ輝石を探すのに、随分時間をかけてしまった」
ふたつ重ねた指輪を見せ、笑う。
「あ、そうだ……あなたのキャリーケース、炎の国で燃えちゃったの」
「別にいいよ」
また買えばいいとは言わなかった。
そこに彼の決意を見た気がして、悲しくなる。
「お茶、淹れてくれるんでしょう……なんのお茶?」
「ダージリンだよ」
「ねえ、何か魔法をかけてほしいな」
「……おじょうさん、なんの魔法をご所望ですか?」
「あなたが一番、ほしい魔法」
彼は数瞬止まり、やがて諦めたように笑みをこぼした。
「ではどうぞ、誓いのダージリンです」
「誓いの?」
「このダージリンには、破ることのできない誓いをこめられるんだ」
ふたりしてお茶を前に、手を組み祈りの形をとる。
「必ずまた、きみに逢う」
「わたしは……必ずあなたを待つ」
「ねえアルス、そろそろユメミさん、と……」
「アスミ!?」
がくん。
わたしの意識は、またもや途切れてしまうのだった。
§
「アンブラ!なぜここが……!?」
「二度目の契約違反だ、約束通りアスミは貰っていく」
「待ってくれ、まだ……!」
「アスミちゃんといられて満足したでしょ?」
人間の女が、猫のように、にんまりと笑っていた。
それは歪んで、気持ちの悪い笑みになっている。
「アンブラはともかく、なぜおまえが……!」
「なんであんたがアスミちゃんを独り占めすんの?」
「は?」
「あんたがいるから、アスミちゃんはあたしとともだちになってくれなかった」
「おい、お前は黙ってろ」
「アンブラ!アンタも邪魔なのよ!!」
アンブラとアルスは顔を見合わせた。
初めて意見が合いそうだ、と。
「今だけでいい、身体を返せ」
「そうやって逃げる気だろう?僕のアスミを奪って」
「あんたのアスミちゃんじゃないでしょ!!」
シャン、と鈴の音がした。
ルシオラたちが意思を持ったかのように避けていく。
2mはあろうかという仙女にも似た女性が、しずしずと歩いてくる。
背後で、妖精の夫婦が恭しく頭を下げていた。
「これはこれは、懐かしき愚弟……そして麗しき邪魔者たち」
「ド、ルミーレ……様」
「……姉さん」
「誰よ!?」
ドルミーレはアスミを抱き起し、従えた蝶に運ばせた。
ティタニアが涙目でアスミに駆け寄る。
「オーベロン様にティタニア様……リリートゥ!お前が誰かに従うとはな!!」
「うざ、きも」
「お下がり、リリートゥ」
「仰せのままに、ドルミーレ様」
「なんだ……なんなんだ、そんな勢ぞろいで……!」
シャリン、と鈴を鳴らし、ドルミーレが頭を軽く傾ける。
「アルスの肉体を、返してはくれないか?」
「…………」
アンブラの顔がみるみる歪み、どろどろとした影が吹き出した。
「アスミちゃんを離して!!アスミちゃん!!」
「おい、アンブラ!!」
しゅる。
影は幕を引くように消えていった。
「ドルミーレ様……!アスミちゃんが連れて行かれて……!!」
「…………」
「ドルミーレ様……?」
ぼろぼろと涙をこぼしたティタニアが、オーベロンに支えられる。
アルスが、頭を抱えてぽつりとつぶやいた。
「姉さん、パニックになってるみたいだ」
「……とりあえず、アンブラたちからあの力は剥奪するです」
「あー、ユメミさんとやらになっちゃった……」
§
◆
また、懐かしい夢をみた。
わたしは祖父母譲りの自分の容姿が嫌いで泣いて、誰かがそれを慰めてくれる夢。
長く伸ばした前髪のせいで向こうは見えないのに、その誰かはわたしがみどりの目を持っていることを当ててしまうの。コーデリアに例えながら。
いつもと違うのは、わたしは今第三者としてそれを見ているということ。
「……あなたが、アンブラって言うのね」
「………………ちがう、いや、ちがわないけど、ちがうんだ、こんなところに連れてくるつもりじゃなかったんだ、もっと準備して、ちゃんと……」
アルスと同じ姿で、全く違う印象を与えてくる。
不思議と落ち着いた気持ちだった。
「この映像、どうしたの?」
「……………………」
「わたし、てっきり、このお兄ちゃんがアルスだと思ってたんだけど……」
アンブラが、ぐ、と唇を噛みしめる。
「あなただったのね」
「なんで……!」
見開かれた目に星が映る。
「ひとつ、わたしはあの後たくさんの探偵ものを読んだ」
「……」
「ふたつ、わたしは……このお兄ちゃんから勧められた」
「…………」
「みっつ、アルスも誰かから勧められた、と言っていた」
「……それは……」
「よっつ、わたしはとても疑い深く、先入観が強いらしい」
アンブラは視線をあちこちにさまよわせ、手をもじもじと動かしている。
焦りや緊張といった感情だろうか。
「わたし、気になって調べたの」
「……な、なに、を……?」
「薔薇の花言葉」
「……や、それ、それは……!」
春の国での出来事を思い出し、数を数えた。
「999本は聞いたわ……何度生まれ変わっても、きみを愛する……」
「それは、僕じゃない……」
「ええ、そこから13本渡して、2本だけ返してきた人がいたなぁと思って」
アンブラはがくがくと震える膝を折り、床に蹲ってしまった。
「やめてくれ……言わないで……!」
「永遠の友情でなく、あなたは最愛を受け取って、世界にふたりきりをくれた……ちょっと!アルスの身体を傷つけないで!!」
頭を掻きむしり出したので、両腕を掴んでやめさせる。
目を合わせたアルスの顔、アンブラが赤くなり、ポロポロと涙を零した。
「わからないの……あなたのこと、隠さず教えて」
しばらく口をパクパクさせた後、両手をギリと握りしめて、アンブラは話し始めた。
「アンブラは、死者から希望を奪う役職のことで、キノコの森の胞子群のように、たくさんいる存在だった……暗いから、見分けなんてつかない、掃いて捨てるほどいる、どうでもいい影たち……でも、本当に些細なきっかけだったんだ……」
唇の端を僅かに上げて、自嘲の色をにじませる。
「アルスが人間界に言ったから連れ戻せって言われて……探しに行った……光に溢れる世界に行って初めて、僕はアルスとよく似ていることに気付いたんだ。人間界は楽しくて、僕はすぐに好きになった……特に、本が好きだった。僕らのような世界のお話の出来事が、手におさまる程度に詰まってるんだ。知らない人と仲良くなったみたいで、夢中になってたくさんの本を読んだ」
チラチラとこちらを伺い、一度唇を噛んだ。
「特に、コーデリア・グレイの話が好きで……何度も読んだ」
「ええ、そうみたいね」
「だ、だから、きみを最初に見た時、わからないけど、急に暗闇から太陽の下に出たような、高いところから落ちたような、初めての気持ちになったんだ」
暗闇に浮かぶ映像は、何度も何度も同じ場面を映す。
「き、きみが、遠くを見つめて、前髪が風に揺れて、木々を抱く大地のように、みどりの目が、き、きらきらと木漏れ日に輝いて……しばらく見つめていた……時間も、世界のすべても忘れ去るくらいに……きみを……」
アンブラは映像をぼーっと見つめ、とぎれとぎれにまた語る。
「……やがて、きみのみどりの目から、宝石のような涙が落ちたんだ……ぼ、ぼくはいてもたってもいられなくて、で、でも、僕はこんなんだから、アルスを真似て、きみに話しかけた……コーデリアが、本から抜け出た、み、みたいで……」
暗くて見えないけど壁があるのか、次第に頭を振りながら悔し気に壁を叩き始める。
映像が映っている場所を、それもちょうど、自分の顔があるところを。
「頼んだんだ、アルスに、せ、精一杯で、きみにもう、話し、かけられないから、代わりに本を渡してきてくれって、アルスにも勧めたその、本を……それに、僕は影だから、肉体を持たない……魂だけの、いまのアルスと同じ……」
アンブラの視線の先、映像を見る。
アルスを精一杯真似たアンブラ。僅かに表情が硬く、緊張していることがわかる。
前髪の向こうで、まさかそんなことが起こっていようとは。
「夏の間だけだったけど、きみを、きみを見つめられて、僕は満足だった」
ぶわりと夏の風が吹く。
そうだった。わたしは夏休みの間祖父母の家に逗留し、出会ったのだ。
「そうだ、意地悪な子がいたの……あれは」
「それがアルスだ、妖精に、み、みどりの目は、珍しいから……」
「あのヤロ……」
「だからこそ、きみとアルスが仲良くなっていくのが耐えられなかった」
映像は移り変わり、わたしすら覚えていなかった夏の思い出を再生する。
「僕、言ったんだ、アルスに、アスミを取らないでって」
「……」
「それなのに、アルス、ずっときみの傍で、きみをとったんだ、僕から」
わたしはそっと首を振った。
「わたしはわたしのものよ……」
「ぼくのほうが先にきみを、す、好きになったんだ、それなのに」
「聞いてアンブラ」
「だ、だって、じゃなきゃ、じゃなきゃ……!」
「わたしは別に、コーデリアがきっかけでアルスを好きになった訳じゃない」
「なにも、なにも聞きたくない!!」
「あなたがアルスを乗っ取ったって、わたしはあなたを好きにはならない」
アンブラは静止し、映像だけがくるくると変わっていく。
夏休みを終え、日本に帰るわたし。
日本で学校に行っているわたし。
生まれたばかりの弟と妹を抱っこして、重さで泣いているわたし。
どこかの歩道で青い目の黒猫を撫でているわたし。
公園でおとぎ話を読んでいるわたし。
中学に上がったわたし。
容姿のことでいじめられたわたし。
……だれかが助けてくれたんだったね。
高校生になったわたし。
友達ができて喜んでいるわたし。
雨の日に、傘をさしている憂鬱そうなわたし。
入道雲を見上げて、アイスを落っことしたわたし。
文化祭を友達と回っているわたし。
大きな雪だるまを作って、写真を撮っているわたし。
運転免許をとったわたし。
就職先が決まったわたし。
お昼休み、会社から離れた公園でお昼休みをすごすわたし。
誰かの落とし物の本を拾うわたし。
本の落とし主と意気投合するわたし。
憂鬱そうに会社へ行くわたし。
同僚の桜井さんに絡まれ、不機嫌そうなわたし。
アルスと話すわたし。
嬉しそうなわたし。
怒ってるわたし。
楽しそうなわたし。
泣いているわたし。
アンブラが再び動き出し、わたしは映像からそちらに注意を向けた。
「じゃあさ」
「うん」
「じゃあ、死のう」
「はぁ!?」
「アルスに体を返すから、代わりに一緒に死者の国で暮らそう」
「いやよ!!」
「いたくないよ?」
「いやだったら!!」
感情の抜け落ちたアルスの顔で、アンブラが歩み寄ってくる。
わたしは左手を目の高さに掲げ、宣言した。
「わたしだって、何度生まれ変わってもアルスしか好きにならない!!」
影が晴れていく。
「邪魔が入ったか」
花弁のように影が散っていき、ラク・ラクリマのような白が現れた。
「僕だって、何度生まれ変わったってきみを追いかける」
そう言い残すと、アンブラは、いや、おそらくアルスはその場に倒れ込んだ。
「アスミさん、いるですか!?」
「ユメミさぁん!!」
好感度の上がりまくる音がする。
この安心感だもんね。
ユメミさん大好きだ。
しっかりとアルスの体を抱え、光の差す方へ歩き出す。
◆
「アスミさぁああん!!!」
「ユメミさああぁあん!!!」
「アスミちゃああああん!!!」
「お姫様ああぁあああ!!!」
わたしたちはがっしりと抱き合った。
間にアルスの体があって、ちょっと潰れちゃったけど。
そんなことに気付かないくらい涙が溢れて、止まらない。
ものすごく長い間、会ってない気がした。
「じょうじぎ、ぢょうごわがっだ!!」
「ワダジだぢも、ぢょうぶあんだっだでず!!」
「がえっでぎでぐれでよがっだああああ!!」
わたしたちはワンワン泣いた。
いっぱい泣いて、お互いの泣き顔で笑って。
「ここは?」
「集合場所の、アウローラ・アニマよ」
「念の為皆を呼んどいてよかたです!」
アウローラ・アニマ。ここが。
「アルス!はやく体に!!」
「アスミ……でも」
「でもじゃない!!」
フッ、とアルスの体が消える。
「おめでとぉ~んアスミちゃ~ん」
「……さ、桜井さん?」
相変わらず、にんまりと猫のように笑っている。
なぜだ。なぜ人間界にいるはずの桜井さんが、ここにいるのだ。
そして、なぜわたしのことを憶えているのだ。
ぱちぱちと拍手までしている。
「あたしさぁ、この時をずぅ~っと待ってたワケ!」
おとぎの国の人々は、この異質さに固まってしまっている。
「アスミちゃんにぃ、いっこ、質問があるんだけどぉ~」
「な、なに……?」
「アスミちゃん、あたしのいちばんの親友になってくれる?」
「へ……?」
口はにんまりのままだけど、目は笑っていない。
そしてなぜか、アルスの腕を掴んでいる。
なんで?なんで桜井さんが?
「で、答えは?」
「……わたしの質問に、先に答えて」
「…………ま、いいよ……なに?」
「どうしてわたしを憶えてるの?」
「えぇ~~~んはずかちぃ~~~ん」
桜井さんは両手で顔を覆い、体をくねくねと揺らし、にまにま笑う。
目はこっちを見据えたままだ。
「真面目に答えて」
ごとり、と音がしそうなほど急に表情が落ちる。
「あたしは、アスミちゃんが思うよりアスミちゃんのことを好・き・って・だ・け」
「……まだ質問はあるわ、どうやってここに?」
「利害の一致でアンブラと手を組んだの……ま、アンブラも邪魔だから消すつもり」
「…………あとひとつだけ教えて」
時間を稼いでいる間に、何か手を打ってくれ、と目くばせする。
「アルスをどうするの?」
「う~ん……ま、それはアスミちゃんの返答次第かなっ」
にまっと笑い、表情のない目でこちらを見つめる。
まだだ、どうにか時間を稼がなくちゃ。
「……わからない」
「はぁ?」
「一番の親友って、ともだちとなにが違うの?」
アルスの体を邪魔だと蹴り飛ばし、立ち上がる。
いっぴきのへびが、アルスの体にぐるぐると巻き付いた。
桜井さんは、ミュージカルでしか見ないような大袈裟な振り付けで語る。
「そりゃあぜんっぜんちがうよ!!だっていちばんだよ!?ともだちより、家族より、恋人より、そしてもちろん他人より優先されるべき存在!!もちろん、なってくれるよね?お互いにいちばんだよ?世界でいちばん大切な人!!良くない?」
「……嫌だって言ったら?」
「魂の奔流にアルスを放り込む」
「なん、て?」
「たましいの、ほんりゅ~~~……おいアンブラ!!いつまでもうじうじ隠れてないで説明してあげたらぁ!?」
わたしたちは顔を見合わせた。
勝手に解決した気でいたけど、一応逃げられたんだった。
「そのひつよはないです、おとぎの国の者なら皆知る話」
「ユメミさん……」
「アウローラ・アニマは命の生まれるところ……魂を洗いながし、新しい命として転生させる機構のようなもの……」
「僕らがそこに行くのは本当にさいごの手段」
ユメミさん、お姫様、王子様が順に桜井さんの前に立ちはだかる。
「うっかり落ちれば、強制的に生まれ変わってしまう」
「アスミさん、アルス様をしっかり抱きしめていて」
「あなたは……」
「リリートゥ……フェアリーズ・ロンドの嫌われ者……」
へびが、巻いていたアルスの身体をわたしに預けた。
こっそり取り返してくれたんだ。
「……きっと、そこまでじゃないわ」
「ありがとう……さ、行って」
リリートゥは優しく笑い、わたしを庇うように立ち上がった。
「なにそれ~~~~!!ば~~~っかみたい!!だっさぁ~!!」
「アスミさんさえ逃がせれば、ワタシたちはいくらでも逃げられるです」
「……まじウケる、一番邪魔なのアンタだったんだ」
ラク・ラクリマ目指して走りながら、そっと後ろを振り返る。ケタケタと狂ったように笑っていた桜井さんは、ウケる、と言いながら真顔に戻っていた。
やっぱり目はこっちを見据えていた。
「あー……、じゃ、もういいや」
「は?」
「アスミちゃあああぁぁあん!!!見てええええぇ!!!」
「ひっ……」
桜井さんが、白い光の渦の、その淵に立っていた。
「アタシ、次は何に生まれると思う!?あはっ、はは、きゃーはははははは!!」
「ちょ、たとえ人間でも強制的に……!」
「……アスミちゃんに好かれないアタシなんて、いらない」
◆
雨が降っていた。
雪の季節だというのに。
結局桜井さんは助けられず、人間界で行方不明者として扱われた。
わたしは警察から連絡がきて、桜井さんの部屋を見せられた。
「アルス、一緒にいて……」
「あたりまえだろ」
アルスは体に戻ってすぐは昏睡していたが、1週間も経つと起き上がり、4週間経った今ではこうして人間界で過ごせている。
「こちらなんですが……」
その時のことはあまり思い出したくない。
部屋の壁中にわたしの写真が貼られ、わたしの物と思われるいつか失くした私物や、わたしに対する感情を書き綴った日記帳が何十冊も出てきたそうだ。
終わってみると、思い至る部分もあった。
会社で、嫌になるくらいずっと話しかけられていたこと。
家に来るたび、あちこち漁られていたこと。
アルスが亡くなったと言ったとき、嬉しそうにあれこれ聞いてきたこと。
桜井さんが「招かれざる客」と言われたこと。
「行こう……」
「うん……」
桜井さんは、次、何に生まれ変わるのだろう。
アンブラたちは能力を取り上げられ、代わりに肉体を得た。
アルスによく似たあのアンブラは、反省して死者の国から出てこないそうだ。
きっともう何十年も、わたしたちはそこを訪れない。
あの少年は、わたしを得たところで満足しなかっただろう。
いつか本物のコーデリアが向こうに生まれるのを祈るばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます