第2話

 考えてみると、夫婦とは不思議な関係だ。家族であってセックスをするのは、夫婦しかいない。子供が欲しいと思わない夫婦なら、当人が望んでいないなら、それは必要なのだろうか。恋人は、手をつないで、キスをして、そしてセックスをする。それくらい、誰かがなんとなく決めた事柄ではないのか。

「子供、欲しいの?」

 夫の後頭部に聞いてみた。沈黙は思いのほか長く続いた。

「わかんない」

 私は、上体を起こしてから、夫の顔が向いている側へと横たわった。夫は驚いた顔をしている。大事な話をするときに目を合わせるのは、二人の約束だった。時々夫は破るけれど。

「あなたは、子供と趣味、どちらかしか選べないとしたら、どっちを選ぶ?」

 夫は考え事をするときの表情になった。動かず、そのまま固まってしまう。その姿を見て、私はようやく切り出す決心がついた。

「私、どっちでもいいと思ってたの」

 うつむいていた夫の目と、私の目が合った。

「でも、今は、いなくても十分楽しいと思う」

 夫が口を開きかける。その口から言葉が出てくる前に、私は早口で続けてしまう。

「あと、私、セックス嫌い」

 夫はぽかんとした表情をして、それから笑い出した。

「そんな気がしてた」

「え、なに。気づいてたの?」

 今度は私が驚く番だった。

「見てたら分かった。……じゃあ、俺も一つ言っていい?」

「うん、どうぞ」

「俺、まだまだ撮り鉄してたいや」

「え?」

「二人で生きていきませんか」

 顔が熱くなった。若かりし頃のプロポーズの言葉より、中年男性になった夫の、しかも全裸で放たれた言葉の方が不思議と胸に響くなんて。

 私は返事の代わりに唇を重ねる。目を合わせるのが気恥ずかしくて、急いでその胸元にもぐりこんだ。手をつないで、キスをして、でもその次はセックスよりハグがいい。そんな夫婦が、ここに一組居てもいいと思う。

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営みはなくとも 北野椿 @kitanotsubaki

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