2人だけの葬列

カトウ レア

第1話

 昨年、何年かぶりに喪服を着ることになった。久しぶりの喪服がきつかったが、ぎりぎり着れた。

 年を重ねるうちに、結婚式よりお葬式の方が近くなっている。すごく記憶が遠いいんだけど、小さい頃、母の実家の神田でひいおじいちゃんのお葬式が初めてかな。正座がきついのとお坊さんのお経を聞くと、なぜか弟が笑いを必死に笑いをこらえていて、困った顔でわたしを見るから、つられそうになったこと、立派なお寿司、一口だけ飲ましてもらったビールをなんとなく覚えている。セピア色の背景で。

 記憶にこびりつくように残るお葬式。年上の女友達の妹さんの若い死。42歳だった。たまたま神宮球場の外野席でヤクルトスワローズの応援が宴で知り合った。最初は、外野自由席の席をとるために試合前に並んでいて、近くの席で観戦していて、だんだん仲良くなった。ヤクルトスワローズも万年Bクラスから、野村監督に監督が代わり、だんだん上昇気流に乗ってきたところ。弱かったチームが勝つさまは痛快で、球場に足を運ぶことも増えた。お客さんも増え、席もチケットも考えられないくらいに争奪戦になり、一緒に並ぶことになり、試合後は飲みに行くことになった不思議な縁だった。そして楽しい時代だった。目の前でヤクルトのセリーグ優勝や日本シリーズをみんなで観戦できたから。

 そんな年、わたしはよく姉妹が住む神奈川と山梨の県境の街に、遊びに行かせてもらった。山奥に中国の水墨画のような橋がある街。21歳くらいかな。お正月からみんなで飲んで、麻雀の卓を囲んだ。女友達とわたしと妹さんと妹さんの彼氏と。そこから記憶が途切れている。

 次に聞いたのは、妹さんが検査で子宮に異常が見つかったこと。癌が遥かに身体をむしばんでいたこと。末期癌、余命3ヶ月。ジェットコースターに乗っているような早すぎる展開。妹さんは、彼氏と同棲を始めたばかりなのに。残される彼氏を思った。

 だけど、残されなかったんだ。2人は妹さんの病院からの外泊日の早朝、渓谷から2人で舞い降りた。2人で橋のたもとに靴を揃え、紐で互いの体をつなげたままに。

 2人分の棺が並ぶとお葬式。感情が、ぐちゃぐちゃになった。葬儀場に行くと、彼氏の前の奥さんとの間にできた子供が2人、子供っていってもわたしとそんな年端は変わらないだろうが。人が集まる前に挨拶に来ていた。立派だなと思ったけど、また何とも言えない感情が、ぐちゃぐちゃうごめいてくる。極めつけは、彼氏のお母さんらしき人が、葬儀の途中、息子の名前を呼んだ、棺に語りかける、すごくすごく悲痛な声で。目の焦点は合わずに、地の底へ語るように。

 逆に妹さんのお父さん、お母さんは、から元気だった。風が強い日で控室から窓越しに激しく揺れる木を眺めて、「ダンスしているみたいね」とわたしに小さく笑った。それが、すこし怖かった。悲しみって泣くだけではないんだよね。泣きわめく方がわかりやすいんじゃないかな。線香を絶やさない為に泊まったわたしと女友達は、飲むしかなくて、飲んでも酒が暖めてくれなくて。逆に冷えていって、また飲んで。「わたしたちには、一緒に死んでくれる男なんて、一生出来ないね」って、変な結論の周りをぐるぐると、話していた。

 今でも、何が正解か幸せなんてわからない。書いていて、また、ぐちゃぐちゃな心が出てくる。どうしようもない。毎年、墓前に花を贈っている。きっぷが良くて、男まさりで、だけどどっか乙女で、あんなふうにわたしもビールをおいしそうに飲めるようになりたいですよ、憧れですよ、Yさん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2人だけの葬列 カトウ レア @saihate76

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ