【短編】クラス転移した生徒たちを異世界の神官がスキル鑑定した結果レギュラーのあるある探検隊をし出す話

八木耳木兎(やぎ みみずく)

クラス転移した生徒たちを異世界の神官がスキル鑑定した結果レギュラーのあるある探検隊をし出す話




 いきなりだが、クラス転移した。

 俺達、都内の某私立高校に通う2年C組の生徒は、昼休み中突如謎の光に包まれた。


 気が付くとそこは、西洋風の宮殿の中だったのだ。



「皆さん、ようこそ、我が世界へ。皆さんには、来る魔王を倒すための勇者になっていただきます」



 そういったのは、俺達の真正面で玉座から見下ろす流れるような金髪の美女。

 女神を名乗る彼女曰く、彼女の魔法で、俺達は日本からこの世界に召喚されたという。

 魔王とやらを倒さなければ、元の世界には帰れないらしい。



「まずは勇者としての能力を確かめるために、皆様のスキルを鑑定させていただきます」


 反応は様々だったが、抵抗しようにも無力だった俺たちはとりあえず女神に言われるがままに別室へと行くことになった。



 誘導されて向かった先には、高級そうなローブを身にまとい、老練なオーラをまとった白髭の老人がいた。



それがしは、この宮殿で、そこにおられる女神に仕える神官……今から某の鑑定術で、貴君らのスキルや能力を、鑑定させていただこう」



 そこに立っているだけで緊張が張り詰める、不思議な老人だった。

 おそらく、格式の高い役職なのだろう。



「では最初の者……ここへ立ち、この水晶に手をかざしていただきたい」



 最初の奴(適当に並んだ列の先頭)が、言われるがまま壇上に上がり、台座に置かれたバスケットボール大の水晶に手をかざした。

 生徒が手をかざした水晶は、淡い光を出した。

 その光を、じっくりと見つめる神官。



「ぬぅ、こ、これは……!!」

 早速、一人目で、レアスキルが確認されたらしい。

 神官の反応で、なんとなくわかった。





 どうやらこの世界では、もって生まれたスキルが、すべてを決めるようだ。

 優秀なスキルであれば重宝されるだろうが、微妙なスキルだったなら、この異世界での人生は悲惨なものになるだろう。




「次の者……ここへ。うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ…!!」




 異世界に転移してからのすべてが、ここで決まると言っても過言じゃないわけだ。




「次の者、ここへ。ぬわああああああああああああああああ!!!!」




 全生徒にとっての運命の瞬間が、容赦なく訪れようとしていた。




「次の者、ここへ。ンギャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」







 ……ん?







 続けて神官は、次の生徒のスキルを鑑定した。







「次の者、ここへ。ぎょエッぎょエッぎょエッぎょエッぎょエエエエエエエエ!!!!!」




 続いて、次の生徒。



「次の者、ここへ。ぎゃヒぎゃヒぎゃヒぎゃヒィィィィィィィィィィィィン!!!」




 次の生徒。




「次の者、ここへ。みぎゃみぎゃみぎゃみぎゃあアアアアアアアアアアアアアアオ!!!!」


「ちょっと待って」




 前へ出て、女神に一声かける。

 口を出さずにはいられなかった。

 ちなみに今の三度の鑑定時の奇声は、すべて飛び上がってのたうち回りながら発している。






「……この方、神官だよね?」

「えぇ、そうですよ。我が宮殿に仕えておられる神官です」

「……悪魔憑きじゃなくって?」



 昔見た映画で、悪魔に憑かれた少女がああいう奇声をあげていた。



「いえ、彼は衝撃を受けているのです……皆さんのスキルがあまりにも優秀なものですから」

「いや、衝撃通り越して、正気失ってない?」

「何せ異世界人たちでは到底及ばない、優秀なスキルの持ち主なのですから……」



 ……だからって、あんな反応する?

 そもそも、鑑定する前の雰囲気から言って、この神官ってこの宮殿でも相当高い地位の人だよね。

 行動とか作法とか、もっと格式高いもんだと思ってた。



「次の者、ここへ」



 俺の疑問にも構わず、神官は鑑定のために次の生徒を促した。

 壇上に上がった次の生徒が、水晶に手をかざす。

 水晶の放った光を見つめる神官。



「ひっ……」


 

 またスキルが優秀だったのか、彼の表情は驚きに染まり、体も震え出した。

 次の瞬間。





「ひでぶ!!!」ブシャア







-1分後-






「次の者、ここへ」




 女神の蘇生魔法で蘇生した神官が、再び生徒を誘導させる。

 この神官もよく抵抗しないな。

 今さっき優秀なスキル見た衝撃で頭が爆発したとこなのに。



「こっ……これは……これはあああァァァァァ!!!!」



 またしても衝撃を受けたのかと思えば、その場を走り去っていく神官。




 かと思うと戻ってきた。

 なぜかショートタイツにブーツ姿で。



 全力で走ったかと思うと、彼は思いっきり飛び上がり。




「おるァァァァァ!!!」

 ボゴォォォ!!!


 全力のドロップキックを、すぐ近くにいた衛兵に向けてかましたのだ。


 しかし、禿頭を晒す彼が動きを止めることはなかった。


 起き上がろうとする衛兵を前に、体を思いっきり回転させて、彼の後頭部に延髄斬りを放った。


 衝撃で立つことすらままならない衛兵を前に、神官は彼の左脚に自分の左脚をフックし、背後に回って彼の左腕を自分の左腕で巻き込み、相手の体をねじり上げた。


 プロレスラーの中のプロレスラーだった男の必殺技、コブラツイスト。

 見るからに痛そうな関節技に、衛兵は彼の体に手をパンパン叩いてギブアップの意志を表した。



「よしよしよしよしよしッッ!!!」

 周りの他の衛兵たちも、彼の魅せた打撃技・関節技のコンボに熱狂していた。

 そこに神官が、煽るように叫んだ。



「いくぞぉぉぉぉぉッッ!!! いち,に,さん,ダァァァァァァ!!!」


 叫ぶ神官。

 ちなみに最後の掛け声では衛兵たちも(一部生徒も)一緒に叫んでいた。









「日本人だろ、あの人?」

「いえ違いますけど」

 即答する女神。

 すっとぼけてるようにしか見えない。



「神官が何で急にプロレスラーになったの? スキルの鑑定と何か関係あるの?」

「まあ一つ考えられるとしたら……彼が鑑定したスキルがあまりに凄すぎて、衝撃で彼の脳が向こう側の何らかの波動とリンクしてしまった、というところでしょうね……」



 波動……?

 それって、もしかして元いた世界のテレビの電波?

 彼の脳が日本のテレビの電波とリンクして、何やかんやあって、テレビの中のプロレスラーになりきった、ってこと?

 


「でもおかしいですねェ……彼だったらビジュアル的にドラゴンスクリューやシャイニングウィザードを放ちそうなのに」

「日本人だろアンタも」




-10分後-



「次の者、ここへ」



 どうせまた叫ぶんだろ、と思ったが、結果は違った。

 生徒が手をかざした水晶の光を見た彼は、無表情で、目を閉じる。

 目を閉じたまま、彼はどこへともなく歩き去って行った。


 かと思うと、ギターらしき弦楽器をもって再び現れた。




 ~♪




 その場に戻ってきた神官は、突然そのギターを弾きだした。

 G調から始まるギターのメロディは、妙に心地よかった。


 その後の光景は、色々な意味で筆舌に尽くしがたかった。





~♪

~~♪





 完璧な声調で、神官は歌を一曲歌いきったのだ。

 あまりの美声に、女子たちはうっとりしていた。

 その場にいたいじめられっ子の生徒も、思わず涙ぐんでいた。

 


 人生、生きてるだけで十分なんだ、と疲れ切った現代人の心の肩をたたいてくれる、そんな歌に、俺も思わず聞き入ってしまった。





 が。

 歌い終えた後、やはり言わずにはいられなかった。






「……いや、なんで玉置浩二の田園歌ったの……?」

「でん……えん……? 何のことかわかりませんけど、やはり皆さんのスキルが優秀だから、衝撃で何らかの電波とリンクしてああなったのではないか、と」

「いやスキルが優秀だったら、普通明るい曲とか歌うと思うんだけど。なんで泥を這いずり回ってでも生きていけたらそれで十分だ、みたいな渋い曲調の歌歌うの? どっちかというとゴミスキルだった時用の歌じゃない?」



 そんな会話を女神と続けている間にも、スキルの鑑定は続いていた。




 神官が次の生徒を鑑定したかと思うと、さっきと同じようにギター片手にもう一曲歌い出した。




P~~P~~P~~♪ P~~P~~P~~♪

P~~P~~P~~♪ P~~P~~P~~♪




「次は長渕剛のろくなもんじゃねえかよ……」

「どんなスキルか、ちょっと確認してきましょう」

「……待てよ。優秀なスキルを見て、渋い曲調の田園歌ったよなさっき。もっと渋い曲調のこの曲を歌うってことは、もっとずっと優秀なスキルなんじゃないか?」

「ゴミスキルでした」

「なんだったんだよ!!!!」




-10分後-




「次の者、ここへ」


 言われて壇上に上がり、水晶に手をかざす生徒。

 それを見つめる神官。



「こっ、こっ、これは……このスキルは……このスキルはあああァァァァァ……ズズズーー---」

 目を半開きにして左手を挙げ出した神官。

 女神が慌てた様子で彼に近寄る。


「神官さん!?

 あァ、神官さんが気絶してしまったわ……

 こうなったら、あるあるさんとこの探検隊を呼ぶしかないわ!!」

 両手と腰を前後に振り出す女神。




 あれ? このフレーズと動きって……




「ドゥドゥビドゥバドゥビ♪」

「「はい! はい! はいッはいッはいッ!♪ ワオ!

 あるある探検隊!! あるある探検隊!! 

 あるある探検隊!! あるある(あ、それ♪)探検隊!!」」

「帰っていい?」

「待って」




 キレ気味で問いかけた俺を、女神と神官はあわてて制止した。





「……色々言いたいことあるけどさ、やっぱ日本人だろあんた?」

「……いえ、貴方たちの言う異世界人ですが」

「異世界人がなんでレギュラーのあるある探検隊知ってんだよ!!」

「いやですから、優秀なスキルを見た衝撃で」

「ならなんで見てなかったアンタも混ざってんだよ!!」

「【ほんこんのツイート ミュートする♪】」

「千原ジュニアの座王で粗品が言わせたあるあるも言わなくていいから!!!」




-5分後-




「チェッチェッコリ♪ チェッコリ♪ 二酸化マンガン横で一緒に踊る女神♪酸化マンガン♪」




-10分後-




べんきょーしまっせ(どこからかマラカスを持ち出して)引越しの、サカイ♪」

ほんま↓女神、かいな、そーかいな♪」




-20分後-






「みっなおそうみなおそう♪女神「そんぽ!」 自動車保険をみなおそう♪ 旦那任せじゃいられない♪」







-10分後-








「ベンベンベンベンベンベンベンベン♪」

「この世は殺戮の時代!! 老いも若きも愛に飢えておろう!!!」


「ベンベンベンベンベンベンベンベン♪」

「この世は殺戮の時代!!!! 老いも若きも愛に飢えておろう!!!!!!」







 ……何やってたんだっけ? 俺ら。

 






 あぐらをかいてエア三味線を弾く女神の後ろで、牛の生首を頭にかぶり日本刀らしき得物を片手に舞を踊る神官を見て、俺はふとそう思った。



「最後の者、ここへ。そなただ」


 そう言われて、俺達はスキル鑑定をしていたのだと思い出した。




 色々あったが、残った生徒は俺一人となった。

 正直俺がどんなスキルかよりも、神官と女神がどんなリアクションをするかの方が気になる。

 ちなみに俺に促した神官の頭は、今牛の生き血で真っ赤である。




 さっと手をかざす俺。

 水晶の光を見つめる神官。

 その瞬間だった。



「あッ」

 


 神官の体が光の弾丸となって、流星のように空の彼方へと消え去っていった。

 宮殿の外壁にぶち抜かれた穴と、そこから漏れる太陽の光だけが残された。




「おめでとうございます!!」

 神官が吹っ飛んだことにも構わず、満面の笑みを俺に送ってくる女神。




「貴方様はチートスキル中のチートスキルを所有する、三穣年に一人の勇者様のようです!! 神官がああなったことこそが、何よりの証です!!」

「……マジ? やったぁ!!!」



 原理はよくわからないけど、要するに神官がどこかへすっ飛ぶほどの衝撃を食らったと、いうことは俺がそれだけのチートスキル持ちだった、ということなのだろう。


 微妙に釈然としなさが残るが、とりあえず強いスキルを得られたこと、聞いたことのない年数のレベルでレアな勇者になれたことは素直にうれしかった。



「よーしみんな、俺達で魔王を倒して、現実世界に帰ろうぜ!!」


「あ、それは無理であるぞ」



 え。



 振り向いた先にいたのは、さっきすっ飛んだはずなのに、いつの間にか宮殿に戻っていた神官だった。

 筋肉隆々の。


「もう魔王倒してきたから」


 ゴトッ。


 そう言って、巨大な玉状のようなものを投げ落とす神官。

 禍々しい形状とオーラ、そして苦悶の表情から言って、確かに魔王の首だった。



「チートスキル見た衝撃で、某もチートスキルに覚醒したから」




 ……





「……あの、じゃあ、帰して? 日本に」

「あ、無理です」




 え。




「魔王を倒したものにしか、異世界間のゲートは行き来できませんから」








◆   ◆   ◆









 高校生失踪事件から1週間後。








「ぎょエッぎょエッぎょエエエエエエ!!」

「ぎゃヒぎゃヒぎゃヒィィィィィィィン!!!」

「みぎゃみぎゃみぎゃあアアアアアオ!!!!」





 都内某所のハローワークに、ハイスペックな就活生を見ると奇声を発する老人相談員が就職したという。

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