夫婦二人、五人家族

こうちょうかずみ

夫婦二人、五人家族

「ただいま――ってあれ?」


 家の中は真っ暗。

 いつもなら、誰かしら家にいるはずなのに。


「おーい、誰かいないのか?」


 おかしいな。今日は、誰も出かける予定なかったはずなのに。

 急用か?


 闇の中、壁のスイッチを探り、リビングの電気を点ける。


「うわっ!」


 露わになったその光景に、思わず声が出た。


 目に飛び込んできたのは、床に散乱するおもちゃの数々。

 もはや足の踏み場など存在しない。

 その中、一人おもちゃを片手に暴れまわる姿が見えた。


三輝みつき!!」


 腹から出したその声に、三輝はぱっとこちらに目を向けた。

 まるで悪気を感じていない、それはそれは無邪気な笑顔を花開かせて。


「おかえりー!大海ひろみ!」

「『おかえりー!』じゃない!何だこの部屋の散らかりようは。ぐっちゃぐちゃにして。というか電気くらい付けろよ!危ないだろ」

「えー?でもスイッチ届かなくて」

「届く!ほら――」


 三輝を無理やり立たせて、電気のスイッチに手を伸ばさせる。

 すると、三輝の手はすんなりとボタンに届いた。


「あ、本当だ」

「はぁ。また真歩に怒られるぞ?――ったく」


 三輝が一人で遊んでいるとろくなことがない。

 俺は呆れながら、壁につるされたホワイトボードを確認した。


はじめ:頼まれていた仕事は全完了。先方に提出。後は返事待ち。

 二花:明日ライブ行くから、夜空けておいて!!

 真歩:カレー作って、鍋にあります。もしいなかったら温めて食べてください』


 なるほど。今日はカレーか。

 どうりでいい匂いが――。


「おかえり。大海」


 突如後ろから抱きつかれ、耳元の囁きに、思わずビクッと体が跳ねた。


「今日もお仕事お疲れ様。ご飯にする?お風呂にする?それとも――」

「ただいま。今日はやけに積極的だな――


 その言葉に、背後の二花はにやりと笑った。


「あっはっはっ!さっすが真歩の旦那だ。すぐバレたな!」


 手を叩き、大袈裟にリアクションを取る二花。

 こいつのこういう、下品なノリにはいつもついていけない。

 いや、理解できたら終わりとすら思っている。


「何度も言ってるだろ?出てくる度に俺をからかうのはやめろって――ってあ!」


 何気なく床に目を向け、そこで俺は気が付いた。

 先程から何も変わっていない、部屋の惨状に。


 そうだよ。二花がここにいるってことは!


「三輝のやつ、片付けほっぽりやがったな!?」

「あははっ、逃げられてやんの」

「あーくそっ、次出てきたらみっちり説教してやらないと――あ、そうだ」


 ふと思い出し、俺はかばんに手を突っ込んだ。


「二花、今一いるか?借りた本返したくて」

「そんなもん、適当においておけばいいのに」

「そういうわけにもいかないだろ?ずっと、会社に置きっぱなしにしてたんだし」


 お、あった。


 俺が本を取り出すと、仕方ないなぁと、二花はどかっとソファに腰かけた。


「――ったくよぉ大海、そんなの机にぽーんと置いときゃいいんだよ」


 見ると、一が呆れた目でこちらを見上げていた。


「おう、一。ほら、これ本」

「ん。ったく、変に真面目だよなお前」

「だって、借りたものは貸してくれた本人に手渡さないと」

「どうせなんだから、別に構わねぇと思うけどな?」


 同じ体、ね?

 中身は全然違うけどな。


「っつーか、早く奥さんの相手してやれよ。俺なんかに構っていないで。真歩、張り切って料理してたぞ?」

「そうだな。じゃあそうさせてもらおうか」


 確かに一の言うとおりだ。

 少し寄り道が過ぎた。

 きっと彼女は、首を長くして待ってくれている。


「――おかえりなさい、大海」

「ただいま、真歩」


 俺らは夫婦。二人暮らし。

 でもこの家は五人家族。

 手の焼ける悪ガキに、生意気娘、気の合う親友に、それから最愛の妻――と加えて俺。


 少し人格がぐちゃっとしてるけど、全員大切な俺の家族。

 今日もどうにかこうにか暮らしています。

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夫婦二人、五人家族 こうちょうかずみ @kocho_kazumi

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