捨てたい

茂由 茂子

疲れた

「ああああああ。疲れたああああああああ」

 

 仕事から帰ってきた五月さつきは、ベッドへと雪崩れ込んだ。もう一歩も動けない。枕へと顔を沈めたまま壁にかかっている時計へと視線を移すと、二十二時を指そうとしている。これくらいの時間に帰ってくるのは、もう四日連続だ。

 

「もう無理。お腹空いたけど動けない」

 

 五月はまだ夜ご飯を済ませていない。お風呂にだって入っていない。明日も六時起きをしなければならないから一秒でも早く済ませた方が良いことは分かっているが、体に力が入らないのだ。

 

「ううううううう」と唸っていると、1DKの部屋の中央にあるローテーブルが目に入る。普段、そこで食事をとったり身支度を整えたりちょっとした書類作業をしたりしている。今日は少し寝坊をしてしまったため、ローテーブルの上には化粧道具が広がったままだ。

 

 なんだかその光景が目に入るだけでしんどくなり、五月は盛大な溜め息をついた。このままで居ても何も進まないから、のっそりと起き上がり、まずはスーツの上着を脱ぐ。まだベッドには座ったままだ。クローゼットへと向かいたいが面倒なので、とりあえずベッドの上にスーツの上着とスカートを広げて置いておく。

 

 ストッキングとブラウスを脱ぐと、床に散らばっていたスウェットを拾い上げそれを身に着ける。ストッキングとブラウスを洗濯用籠へと入れようと洗面所へと向かうと、洗濯用籠が溢れそうになっていた。もう何日洗濯をできていないのだろうと思うと、五月はげんなりした。

 

 とりあえず洗濯用籠にブラウスとストッキングを投げ込み、キッチンで冷蔵庫を開く。何か食べられるものはあるだろうか。幸い、冷凍パスタがあった。ナポリタンを食べたいわけではないが、これしかないのだから仕方がない。それをレンジへとかけている間に、五月はまたベッドへと雪崩れ込む。

 

「ああ。ぐちゃぐちゃに丸めて全部捨ててしまいたい」

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捨てたい 茂由 茂子 @1222shigeko

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