夜風に風鈴 ~ふたりのそれから~

「あ、つぅ……」

 エアコンが穏やかに効いた、六畳ほどの閉め切られた部屋の中、全裸の若い女が、汗だくの身体を起こしながらつぶやく。

 傍らにはこれまた全裸の若い男。こちらも汗にまみれている。

 よくよく見れば、汗以外の何かを互いの身体にまとわせているふたり。

 情事の後なのが見て取れた。

 軽い寝息を立てる男の顔を見つめ、ほほを染めながら笑みを浮かべると、腕を伸ばし、男の良く鍛えられたたくましい肉体にそおっと指を這わす。

 大胸筋から腹筋へ、そしてその下にあるやや萎えた男性のシンボルに。

 少し前まで己の中で存在感を誇っていたそれを愛おしそうに撫でる女。

 愛撫によってたちまち硬度を取り戻す。

「――ん、んん」

 逸物の変化につられ、男が微睡まどろみから帰還する。

「起こしちゃった?」

 悪びれなく女が言うと、

「端から起こすつもりだったんだろう?」

 見抜いているぞと不敵に男が答え、下から女の身体を抱きかかえる。

「この、好き者め」

 引き寄せた女の耳元で、見透かしたような口調で囁く。

 投げかけられた言葉に背中をゾクゾクと震わせながら、

「こんなふうに変えたのは、秀人ひでとだぞ」

 濡れた声で女が答える。

 女に初めからその素養があったことを男は告げない。

 今更言ったところで、せん無いからだ。

 見詰め合い、無駄な言葉を紡がせないよう、むさぼるみたいな口づけを交し合う。

 その日何度目かの情交の後、男が閉め切っていた部屋の窓を開け放つ。

 換気しきれず、こもっていた桃色な空気が解き放たれ、新鮮な大気がなだれ込む。

 流れてきた夜風が、窓辺に吊られていたガラスの風鈴を揺らす。

 硬質だが、涼やかな音色に、身体の火照りも静まっていくようだった。

 仰げば、満天の星々。

 窓辺に立つ男に寄り添うように女が並ぶ。

 男と同じように空を見上げ、

「――星が綺麗ね」

 思ったことがつい口に出たという風な女に、

浜路はまじほどではない」

 男の小細工ない言葉が返される。

 治まりかけていた火照りがぶり返す女。

 吹き抜ける夜風が、熱を持ち出したほほを撫でていく。

 熱いふたりを冷やかすように、チリーン、と涼し気に風鈴が鳴った。

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太刀掛くんと各務原さん シンカー・ワン @sinker

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