なんてん

一縷 望

ふれてはならなかった

 なんてん、なんてん、真っ赤な、なんてん。

 丸っこくて、溶けた蝋みたいにつるつるで、あんなにあどけないのに、毒を持っている、なんてん。


 あなたの美しさを私だけのものにしたくて、ひとつ捥いで、大切に握って帰ったなんてん。


 私の体温はあなたを蝕み、美しい赤は黒ずんでしまった。



 なんてん、なんてん、綺麗だった、なんてん。

 ふやけたあなたの肌に爪を立て、薄い果肉に傷をつける。


 ふと香る青臭さに申し訳なさを感じても、あの綺麗なあなたは戻ってこない。


 だから最後まで、責任をもって、剥ぎ続ける。



 なんてん、なんてん、真っ白な、なんてん。

 あなたの内側はどこまでも白いけど、私はそれが酸化していくのを眺めることしかできないの。



 なんてん、なんてん、茶色くなった、なんてん。

 私の罪悪感は、春一番の風に流され、来年、色づいたあなたをまた傷つけるまで、決して、戻ってこないでしょう。

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なんてん 一縷 望 @Na2CO3

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