触れられた死体

大黒天半太

『触れられた死体』事件

 思い返しても、未だに心がざわめき、ぐちゃぐちゃな感じがしている。


 気持ちの落としどころがない。時間が経った今ですらそうなのだから、当時の私に、何か出来たのではないか、と思うことさえ愚かしい。


 私の名は、銀鏡しろみ くろがね。ただ、学校の友人達は、クロとかテツとか勝手に呼んでいる。面倒だから、そのまま訂正はしない。



 友人に紹介された自称・イタリア人探偵は、すぐに警察署に来てくれた。


 友人の弁では、良心的な料金で、確実に事件を解決してくれると言う。ただ、紹介した時の、その友人の笑い含みの電話越しの声が気にかかる。


 何せ、料金が、浮気調査をするような市井の探偵と同列だ。


 一日の料金と必要経費、プラス成功報酬。どれも法外な値段とは言えない。


 彼が他の探偵と違うのは、その後だ。


 面白い事件だったら、個人情報には配慮してくれるが、彼によって、小説に書かれる。

 それに同意することが、依頼を引き受ける条件だ、と。



 カチャトーリ・ディオグランデオスコーリタは言った。本名を名乗る探偵なんているのかね? と。


 事件のタイトルは、『触れられた死体』 というのはどうだろうか?


 探偵の暢気のんきな発言に、思わず顔をしかめてしまう。


 飲んで帰る途中の公園に死体を見つけ、第一発見者として警察へ通報したばかりに、そこはかとなく容疑者サスペクト候補扱いを受けているのだ。


 何が悪かったって、酔ってたから、死体をただの公園で寝ている人だと思い込んで、声を掛け、起こそうと揺り動かしたのが、最悪だった。


 死体に触れて、動かして、驚いて放り出したから、死んでたそのままの状態を変えてしまった上に、酔ってたから、元の状態がどうだったか正確に覚えてもいない。


 遺体やその衣服や持ち物に、私の指紋はお構いなしに、いっぱい付いていたし、何の説明もできない。


 遺体発見の通報をしただけのつもりが、そのまま警察署で事情聴取になり、留置場に泊まる羽目になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

触れられた死体 大黒天半太 @count_otacken

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ