今日も、朝ご飯を一緒に

月代零

今日も、朝ご飯を一緒に

「……何してるの?」


 朝、同棲中の彼氏がわたしより先に起きて、キッチンで何やらかちゃかちゃとやっていた。


「見りゃわかるだろ。朝飯作ってるんだよ」


 その返答に、わたしは一瞬目を丸くする。

 昨夜、家事の分担について派手に言い合いをした結果、少しは心を入れ替えたのだろうか。


「食うなら、着替えて顔洗ってこいよ」

「あ、うん」


 彼は背を向けて作業をしながら、ぶっきらぼうに言う。任せて大丈夫だろうかと不安を残しながら、わたしは言われた通り着替えて顔を洗ってから、リビングに戻った。

 わたしがテーブルに着くのを見計らって、彼が朝食の載った皿を運んできた。

 白い丸皿の上には、トーストしたパンにスクランブルエッグ、ウインナー、レタスとトマトのサラダが盛ってあった。テーブルの上には、マーガリンとイチゴのジャムが用意されている。それにインスタントのコーヒー。

 なんと、ほとんど料理をしたことがないにしては上出来じゃないか。


「なんだ、やればできるんじゃん」


 わたしは感激して、いただきますと手を合わせ、フォークを手に取る。しかし、スクランブルエッグ――と言うより、よく見ると炒り卵のようなそれを一口、口に入れて、首を傾げた。

 わたしの思うスクランブルエッグは、バターとミルクが香る塩味なのだが、今口に入れたこれは、ほのかに出汁の風味がした。食感もぼそぼそしている。


「……どうだ?」


 不安そうな顔で、彼が訊いてくる。

 もぐもぐと咀嚼して、飲み込む。スクランブルエッグの作り方なら、以前に教えたはずだ。もっとも、彼は一度も実践しようとしなかったので、覚えてはいないだろうが。


「んー……」


 美味しくないわけではない。ただ、期待していた味と違って、脳が混乱したのだ。

 せっかくやる気になってくれたのに、下手なことを言って「じゃあもうやらない」などと言われたら元も子もない。わたしは何と言おうか思案する。


「……どうして、これを作ろうと思ったわけ?」


 料理の味からは話題を逸らしたが、まあこの際いいだろう。彼は頭を掻きながら、いたずらを見つかった子どものように話始める。怒っているわけじゃないんだから、堂々としていればいいのに。


「朝飯、いつもこんな感じだろ。だから、卵なら使っても文句ないだろうと思って……」


 ほうほう、それは良い心がけだ。


「お前、出汁巻き卵が好きだって言ってただろ。だから、ネットで動画とか見ながら作ろうと思ったんだけど、上手くいかなくてさ」

「なるほど、それで緊急発進スクランブルしちゃったってわけね」

「……スクランブルエッグって、そういう意味だったか?」


 出汁巻き卵を焼こうとしたが失敗して、ぐちゃぐちゃに混ぜてスクランブルエッグにしようとしてごまかそうとしたが、それもスクランブルエッグと言うよりは炒り卵になってしまったと言うことのようだった。


 料理初心者がきれいな出汁巻き卵を作るのは難易度が高いと思うが、ともあれ挑戦しようと思ってくれたことには敬意を表さなければ。


「ありがと」


 すねたようにそっぽを向く彼。意外と可愛くて、昨夜の喧嘩の余韻でぐちゃぐちゃしていたわたしの心は、穏やかになっていった。

 これからは、思っていることは喧嘩する前にきちんと伝えあって、ずっと仲良く暮らしていきたいと思った。


 了

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