強風の対処は風魔法で?

ちかえ

強風の対処は風魔法で?

 最悪だ。


 何で、よりにもよって今日、こんな強い風が吹いているのだろう。おかげでせっかくセットした髪がぐちゃぐちゃになってしまった。


 バッグの中を探るが、櫛を家に忘れて来てしまった。これでは直せない。


 こんな姿で彼に会いたくない。きっと、会ったら幻滅されてしまう。


 この王都には私よりも洗練された女の子が山ほどいるのだ。


 王都にある上級学校に通う事になった私は、先に王都で就職していた大好きな幼なじみに道ばたで偶然再会した。その嬉しさでとっさに告白してしまった。あれは今考えても恥ずかしくなってくる。オッケーをもらったのが不思議なくらいだ。びっくりして返事をしたけど、今、後悔しているのではないかと心配になってくる。


 それにしても、気合いを入れて都会風のファッションを研究しておしゃれを頑張ってみたけど、髪がこれでは本当に台無しだ。


 どうしたらいいだろう。服屋のショーウインドウに映るみっともない自分を見てため息を吐きたくなる。今の私にはこの店のどの服も似合わないに違いない。


 必死に考える。そこで私にアイディアが浮かんだ。

 風で乱れた髪は風で直せばいいのだ。


 この間、雑誌でマナの動かし方の特集をしていた。そこに風魔法のやり方もあったのだ。あれを使えば髪くらい何とかなるだろう。


 幸い、鏡代わりのショーウインドウもある。ちゃちゃっと直してしまおう。

 と、いうわけでうろ覚えの魔法を使ってみる。


 えっと、まず、体のマナに集中して、私は慣れてないから気合いを入れないと。


「うわ?」


 だが、上手くいかなかったようで思ったより強い風に転ばされてしまった。周りの人がクスクス笑っている気がする。


 今度こそ、ともう一度気合いを入れて風魔法を使ってみる。


 だが、次の瞬間、髪ではなく私自身が舞い上がってしまった。そして自然の強風と合わさって止まらない。

 何が何だか分からなくて悲鳴を上げることも出来ない。


 私はどうなってしまうのだろう。どこかに落ちて死ぬのだろうかと絶望したその時、背中を支えられる間隔がした。

 完全には止まらないで少し滑ってしまったが、とりあえず着地する事は出来たようだ。


 驚いて後ろを見ると、焦った表情をした彼の顔が見えた。


「あ、えっと……」

「何やってんの!」


 彼の質問に、私はつい口ごもってしまった。今まで起きた事など恥ずかしくて説明できない。


「えっと、ちょっと、マナを……」


 なんだか足が痛い気がするので足下を見ると、少しばかりすりむいていた。しかもスカートもちょっとだけ先の方が破れてしまった。

 本当に今日は散々だ。しゅんとする。


「素人が我流で魔法を使っちゃ駄目だって!」


 おまけに彼に叱られてしまった。彼はマナを使って仕事をしているという。

 プロのアドバイスはとても厳しかった。しゅんとする。


「治療するから俺の家に行こう」


 確かにこれではデートどころではない。もう彼の言うとおりにするしかない。


「うん」


 そう答えると、彼はすぐに私を抱き上げた。


「治療終わったら美味しい物をテイクアウトしてくるから一緒に食べようか」


 そんな優しい提案までしてくれる。私はうなずくついでに恥ずかしい気持ちをうつむく事で隠した。

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