シスター・アレット


「どうぞ」

「頂きます」


 山牛の肉と脂身の入った麦粥は、なかなかに重量級の朝飯だ。

 オレは粥を木の器に取り分けて、シスター・アレットに渡した。


「足の負傷の原因は、この山牛ですか」


 ゆっくり粥をすすりながら、アレットは疑問を口にする。

 質問……いや、もう尋問が始まってるんだろうな。


「山牛は関係ありません、遺跡の崩落に巻き込まれて、それで折りました」


 そう答えて、オレは粥をすする。

 うん、一晩熟成してなかなか肉の味が出ている。


「そして、遺跡の中でこのゴーレムを見つけたというわけですか」

「ええ、まぁ……」

「山牛を狩ったのはその後ですか」

「その時の遠征隊の詳しいことはご存知で? 子供たちが遺跡をさまよい歩いていたところを、山牛に襲われてたんです」

「なるほど。ギルドマスターから関係する書類をせしめましたので大体のところは。リーダーは、はあ、サラゴサ家のゲルリッヒですね」


 アレットが「サラゴサ家」という言葉を口にするが、その言い方、アクセントには微妙にトゲがある。サラゴサ家は魔道具の発掘と関係が深い。サラゴサ=魔道具と直接結びつけてもいいくらいだ。

 魔道具を封印すべしというモットーを持つ聖櫃教会としては、サラゴサ家とゲルリッヒのことが気に食わないのだろう。


 どうやり過ごそうかな、そう考えていた矢先のことだった。


「誰も扱いを知らない、知るはずのないゴーレムに乗って山牛を狩った。ゴーレムに随分とお詳しいですね」


 ウゲッ!? めちゃくちゃ痛いところを突かれた。

 

「あー、それはですね……」


 いかん、アレットの目的がまるで分からん。多分、ゴーレムを難癖つけて箱に閉じ込めたいのだろうが、ゴーレムに意思があるとか、それ絶対だめだろ。

 下手なことが言えなくなってしまった。うむむ……どうする?


 ここはウソを並び立てて、なんとかするか?


「ゴーレムに乗った時、心に浮かんだんですよ、ゴーレムの扱い方が」


 オレがそう言うと、アレットはニッコリと微笑み、懐からメモを取り出した。


「冒険者のレヴィンは、魔道具により精神操作を受けている可能性あり……と」


 ハイ!墓穴ゥゥゥ!!!

 今オレ、穴の中にいますよ!!! 土をかぶせられる5秒前!!!


「かなり危険な状況にありますね。一刻も早い確保、収容、保護が必要です」

「実は、オレにだけ見える妖精さんがささやいて」

「重度の精神崩壊に陥っていますね」


 クソッ!! どうすればいい!!

 オレの心が血の涙を流しながら叫んだ、その時だった。


『お二方、茶番はそこまでにしませんか』


 声の主はガラテアだ。


 オレは彼女が意思を持っていることをひた隠しにしようとしていたが、彼女の方からネタをバラされてしまった。だ、大丈夫なんだろうか。


 だが、彼女の悪知恵の回り方は、この清廉潔白なオレを圧倒している。

 きっと彼女なら、ガラテアさんならなんとかしてくれるはず……!


『先に言った自爆の件は狂言です。もう気づいているかもしれませんが』

「はい。広範囲にわたって味方を巻き添えにする兵器を作る必要はないですから。例え機密保持のためでも、過剰すぎます」


 えっ?


『よく考えれば嘘だと解るような狂言でも、目先の欲でレヴィンを襲う、頭の足りない冒険者を追い散らすのには必要です。ご理解いただけると助かります』

「はい、貴方は適切な対処をされたと思います」

「えーっと……」


 話が見えない。アレットは全てわかった上でからかっていたのか?

 ていうか、ガラテアさんが普通に説明しちゃってるよ。


「わかってたんですか?」

「いいえ、あくまでも推測でした。おしゃべりのできる魔道具も存在しますから、ゴーレムの使い方を説明する機能が、ゴーレムにある可能性を推測していました」

「ああ、なるほど……」

「ですが、ゴーレム自体に高度な会話ができるとは予想していませんでした」

『そうでしょうね』


 うーん、しかしわからん。アレットの目的が見えない。

 なんだかモヤモヤするのだ。


 アレットがそこまで判っていて単独で接触する理由がわからない。

 彼女の目的はいったい何だ?

 いや、一人で来ているなら、か。

 つまり、「彼女の目的を俺たちに明かす」それが目的なのか?


「単刀直入に聞く、アンタの目的は何だ?」

「ようやくお気づきになりましたか。では、ご説明いたしましょう」


 このシスター・アレッタ、言動がすこし頭に来るが、有能には違いないはずだ。俺たちに何を持ってきたのか、何を要求するつもりなのか、聞こうじゃないか。


「まず、聖櫃教会にはおしゃべりする魔道具がありました。ですが、サラゴサ家の政治的計略によって、それは合法的に奪われました」

「ああ、さっき言ってたやつか、それが何か?」

「報告書によりますと、彼はしきりに訴えていたそうです。」

「一体何を?」


 俺の疑問に、アレットは手に持っていた粥を膝に置いて答えた。


「魔道具は王の廃墟の奥底にあるモノたち、それを掘り起こせと訴えていました」

「モノたち?」


 オレはモノという言い回しが気になった。

 擬人化した、まるでヒトのような言い方――あっ。


「彼女の存在で、その魔道具の言葉が真実であったと確信しました。おしゃべりな魔道具はこう言っていたそうです。ゴーレムは意思ある存在だったと」

『……』

「彼の手によると、王国はゴーレムたちを利用し虐げ、抵抗する彼らを封印したそうです。そして、彼らは開放者を求めているそうです」

「おい、それってつまり……ゲルリッヒがその魔道具から手に入れたのって――」


「そうです。彼は多数のゴーレムが封印された場所を知っています。」

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人生負け犬のおっさん、世界最後のゴーレムを手に入れて無双する! ねくろん@カクヨム @nechron_kkym

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