カレーライスの彼女【KAC20233】

銀鏡 怜尚

カレーライスの彼女

 彼と付き合って半年。子供っぽいところはあるけど、心優しい彼と順調に交際している。

 告白したのは彼。大学のスキーサークルに所属する同級生だ。上京して一人暮らしの私のアパートにサークルのメンバーが集まって飲んだときに、彼と意気投合した。

美沙みさちゃんの作る料理は、本当にどれも美味うまいなぁ!」と、褒めちぎってくれた。がっちり彼の胃袋を掴んでしまい、彼は私にアタックしてきたのだ。


 そんな彼は、私の作る料理を、無条件で喜んでくれる。本当に美味しそうに食べてくれるので、作りがいがあるし、素直に嬉しい。でも、1つだけ容認できないことがあった。

 カレーライスを出すと、最初にルーとご飯を全部ぐちゃぐちゃに混ぜてしまうのだ。


 最初見たときは、はじめて彼の行動で幻滅した。とは言っても些細なことだ。これが原因で別れるほど、私の器は小さくない。

 ただ、外食するときは、カレーライスを頼ませないように注意しないと、マナーとして恥ずかしい。インドカレー店みたいに、ナンをディップして食べるならいいかもしれないけど、CoCo壱番屋には行けないな、と思ってしまった。もっとも、CoCo壱番屋は私の生まれ故郷には少ないので、私自身入店したことはないのだが。


 よりによって、彼は私の料理でカレーライスがいちばん好きらしいので困ったもんだ。リクエストまでくれる。食べ方さえ改善してくれれば……。きっと、幼少の頃からの食べ方なのだろう。簡単には直せないだろうな。

 彼のことは好きだし、こんなことで嫌われるのは嫌だし、別れてしまったらサークル活動もやりにくくなること必至だ。

 しかしながら、小さな不満を言えずに遠慮しているようでは、これ以上の関係の発展は望めないような気もした。


「前から気になってたんだけど、たくちゃん、何でカレーライスをそんな風に食べるの?」

 ストレートに聞きすぎたか。でも、彼は怒るどころか、恥ずかしそうに笑いながら答えた。

「俺、カレー大好きで、ルーを先に食べてしまってご飯が残っちゃうんだよね。だから、最初に全部混ぜちゃえば、ご飯が残ることもないなって思って……」

 何だ、そんなことか。幼少期の癖だと思って躊躇ちゅうちょしていたけど、拍子抜けした。それなら簡単だ。ルーとご飯の比率を変えてやればいい。


 ルーを多めに、ご飯を少なめにして、いきなり全部混ぜるのではなく、少しずつ混ぜて食べてもらうことにした。しかし、なぜだかご飯が残ってしまう。

 正直、彼のカレーの食べ方に問題があるような気がしたけど、さすがにそこまでは言わない。でも、意図せずご飯だけ残ってしまうのは、ちょっと不憫ふびんな気がした。


 そこで思い付く。故郷のソウルフードがあるではないか。私は何を隠そう札幌出身。スキーサークルを選んだのも、故郷がウィンタースポーツの盛んな地域ゆえ。

 そして、札幌と言えばスープカレー。スープカレーにご飯はついてくるけど、カレーのルーだけ味わっても良し、ご飯をスプーンに乗せてルーに浸しても良し、最後ご飯が残りそうになったらご飯をルーに投入しても良し。

 どんな食べ方でも、基本的に美味い。


「わー! スープカレーじゃん! めっちゃ美味い!」

 東京出身の彼はスープカレーを食べたことがなかったそうだけど、めちゃめちゃ喜んでくれた。

 かくしてカレーライスぐちゃぐちゃ問題も無事解決!


 でも、ふと、わざわざスープカレーにしなくたっていいのでは、と気付く。普通のカレーライスでも、ルーを多めに作っておいて、ご飯が残ればルーをおかわりすればいい。


「ヤバい! 札幌サイコー!」

 まぁ、卓ちゃん、本当に美味しそうに食べてるからいっか。子供のような表情で食べる彼の顔を見て、私は幸せをまた1つもらった。

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カレーライスの彼女【KAC20233】 銀鏡 怜尚 @Deep-scarlet

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