桜の老樹は見てきたの 🌳
上月くるを
桜の老樹は見てきたの 🌳
郊外の坂の上の小学校の校庭に、樹齢百年にもなろうとする桜の大樹があります。
ぎゅっと絞ったようにねじれた幹には苔が生え、太い部分は空洞になっています。
寿命を待つだけの老木にも、当たり前ですが、若木のころがありました。(笑)
もとはといえば、1927(昭和2)年の卒業生が記念に植えたものであります。
野球ネット横の日当たりや土壌がよく、歴代職員や児童も大切にしたのでしょう。
すくすく成長し、毎年の卒業&入学児童を満開の花で歓迎してあげるように……。
🎒
尋常小学校から国民学校、さらに戦後の小学校へと大切に受け継がれて来た桜の木ですが、そのねじれた幹のがらんどうにはたくさんの悲しみも巣くっているのです。
それはなんといっても多くの卒業生の命を奪った戦争に根ざしたことごとで……。
出征兵士や軍馬の見送り、銃後の女性らの竹槍訓練やバケツリレー、遺骨の帰還。
なにひとついいことがなかった戦争が終わり、畑になっていた校庭に野球のボールが飛び交い、神武景気から岩戸景気へと敗戦国日本の復興は目覚ましかったのです。
🍃
世界を驚かせた高度経済成長期のただなかの1958(昭和33)年、放送局主催の全国学校音楽コンクールで、この学校の六年生が全国一の金賞に輝きました。✨
課題曲の『風は見た』は当時の世相を象徴するように前向きで朗らかな楽曲です。
あの暗い戦争の時代を思い出したくない大人たちもこの歌を大いに歓迎しました。
♪ 風は見た 風は見た 山で見た
狭い小さな学校に
山の子供がみんなで10人集まって
小鳥といっしょに朝のうた
歌っているのを 里で見た
♪ 風は見た 風は見た 町でみた
広い大きな学校に
町の子どもがみんなで1000人集まって
光といっしょに朝のうた
体操するのを 空で見た
♪ 風は見た 山で見た 町でみた
伸びる若葉のいきおいで
数えきれないみんなの笑顔が揺れながら
明るく呼び合う朝の国
世界へ広がる海を見た (宮沢章二作詞 佐野量洋作曲 冨田勲編曲)
🏫
いまを生きる人間たちが知らない悲喜の思い出をひとりで背負って土に還ろうしている桜の老樹の大往生を、長年の友の太陽が「天晴れ!!」と賞賛しています。🌸🌞
桜の老樹は見てきたの 🌳 上月くるを @kurutan
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