おもちゃのお片付け

西しまこ

第1話

 ママがね、このぐちゃぐちゃのおもちゃをちゃんと片付けないと、「いやいやえん」のおもちゃみたいに、おもちゃがいなくなっちゃうよって言うんだ。

 ママ、あれはお話なんだよ。そんなことあるはずないよ。

 ってボクはちゃんとママに教えてあげたんだ。


 だいたいボクは「いやいやえん」のしげるみたいに、赤い色がきらいってわけじゃないし、ちゃんと幼稚園も行っているしさ。ちょっとお片付けがきらいなだけだい。

 でもさ、きらいだけど、あとでちゃんと片付けるつもりなんだよ、いつも。えらいでしょ? だから、ほんとうはお片付けだってちゃんとできるいい子なんだもん。


 そう思ってたのに。

 ボクがお昼寝から起きたら、全部なくなっていたの、ボクのおもちゃ!


 プラレールの線路もトンネルもはやぶさも、ゆふいんのもりも、とうかいどうせんも、踏切も大事なへびのうねうね線路もなくなっちゃった! あれ、だいじだったのに!

 この間作った、きらきらの剣とたてもなくなっちゃった。作るの、すごく苦労したのに。きらきらテープ、いっぱい使ってさ。

 それからそれから、レゴブロックも全部ないの! ボク、秘密基地作ってるところだったのに、ひどいやひどいや。大作だったのに‼

 仮面ライダーの変身ベルトも、レッドの武器もない! マックでもらったおもちゃもない! 夜店で買った拳銃もない!


「ママ! ボクのおもちゃ、どこに隠したの?」

「え? ママは知らないわよ。『いやいやえん』のおもちゃみたいに、だいじにされていないのが嫌で、逃げ出したんじゃない?」ママは平気な顔で嘘を言う。

「ママのばかばか! ママなんて、きらい!」


 ボクは家を飛び出した。ママなんてママなんて!

 ぷりぷり怒りながら歩いていたら、何かよく知っているものが見えた。

 あ! ぼくのはやぶさだ! ママったら、あんなところに捨てたんだ。

 ボクは急いではやぶさのところへ走った。すると、はやぶさはボクがつかもうとしたら、さっと逃げたんだ!


「ぼくたちは、家を出るんだよ。きみんちにはもう帰らない」

「え? どうしてだよう」

「だって、全然片付けしてくれないし、だいじにされないんだもん」

「ボク、だいじにしているよ! ちゃんと片付けるつもりだったもん!」

 ボクは悲しくて悲しくて、わんわん泣いた。

 ボクのこころはぐちゃぐちゃだ。


 泣いていたら、ママが大きなお腹を抱えながら走って来て「どこへ行ったかと心配したのよ」ってぎゅってボクを抱きしめた。ボクはママにしがみついて、泣き続けたんだ。


 ママが、赤ちゃんが生まれるから、おもちゃをお片付けできるようにねって言って、ボクなんかさみしかったんだ。ボク、おもちゃみたいに片付けられちゃうのかなって思って。

 ママ、ボクのこと、ずっとぎゅってしていてね。


 おうちに帰ったら、おもちゃはちゃんといつもの場所にしまわれていたよ。

 ボク、ちゃんと自分でお片付けできるよう、がんばるね!



   了


参考図書  『いやいやえん』中川李枝子(福音館)



一話完結です。

星で評価していただけると嬉しいです。

☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おもちゃのお片付け 西しまこ @nishi-shima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ