ぐちゃぐちゃの脅迫状

阿々 亜

ぐちゃぐちゃの脅迫状

2023年3月6日、事件は起きた.......



12:00

カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ2023

第3回お題「ぐちゃぐちゃ」発表。



12:11

都内某所、某オフィス。

一人の男がスマートフォンで、今日発表のお題を確認していた。

男はお題を見て思った。


(げ、なんだよ、このお題!?ぐちゃぐちゃって、なんだよ!?やっべー、何にも思い浮かばねー...........)


男は頭を抱えた。

1回目、2回目となんとかお題に則した小説を上げていたが、このお題でいったいどんな小説を上げればいいのか見当もつかなった。


(くそー、とりあえず、他の人の読んで、アイデアひねり出すか........)


男はスマートフォンの画面を操作し、「KAC20233」でキーワード検索した。


(うわ、もう何人か上げてる......まだ10分そこそこだぞ?この人たちどんだけ速く書けんだよ?)


男はそう思いながら、参考になりそうな作品を探す。


(ん? なんだこれ? え? これ、ちょっとヤバくない? どうしよう、運営に通報した方がいいのかな? あ、でも、通報ってどうやってやるんだろう?)


男は通報の方法を調べたあと、とある作品を運営に通報した。



12:19

東京都千代田区某所。

角川書店カクヨム編集部。

パソコン画面に張り付いてた一人の男性編集者が立ち上がった。


「編集長!!」


男性編集者は、部屋の最奥の席に座る編集長と思しき中年の男に呼びかける。


「ん?なんだ?」

「変な通報がきてるんです!!」

「え、通報? 性描写でも、暴力描写でも、規約に引っ掛かりそうだったら、いつも通り適当にBANしとけよ」

「いえ、これはちょっと、初めてのケースかと........」

「は?」

「とにかく、見てください!!」


ただならぬ雰囲気を感じた編集長は席を立ち、呼びかけてきた編集者の席に向かい、パソコン画面に表示された内容を確認した。


「なんだ、これは............」

「どうしましょう?警察に相談したほうがいいでしょうか?」

「いや、とりあえず、上にあげる」

「上?」

「管理統括本部だ」



12:26

角川書店管理統括本部


「当該の内容は確認した。とりあえず法務部で検討させる」



12:31

角川書店法務部


「こちらでも内容を確認しました。この内容だといたずらの可能性もあるので、現時点で警察というのは時期尚早かと。ええ、そうです。ですから、梶先生に。ええ、あの方なら刑事事件の経験も豊富ですし、警察とのパイプもありますので」



13:01

角川書店法務部の依頼で一人の男がカクヨム編集部にやってきた。

歳は20台後半、顔は少し童顔だが、その目には鷹のような鋭さがあった。


「お忙しいところすみません、梶先生」


編集部の入口に現れた男の元へ編集長がかけつけ挨拶する。


「お世話になります。さっそくで申し訳ありませんが、問題の投稿を見せてください」

「ええ、どうぞこちらへ..........」


そう言って編集長は男を編集部内へ案内する。

謎めいた男の登場に、編集部の部員たちがひそひそと話をする。


「誰、あの人?刑事?」

「梶龍一、ウチ(角川)の顧問弁護士だよ」

「え、めちゃ若いじゃん」

「ああ、とてつもなく優秀なキレ者らしい。なんでも、何件か刑事事件も解決してるとかなんとか.......」


梶は最初に通報を確認したパソコンの前に案内され、その画面に表示された文面を読んだ。

それは、カクヨムに投稿された小説だった。



タイトル:脅迫状


作者:Raccoon Dog


紹介文:

カクヨムのクソ運営ども、見ているか!?

俺はこの7年間お前らのサイトに小説を投稿し続けてきた!!

だが、俺の小説はこの7年間日の目を見ることはなかった!!

俺はお前たちに言いたいことが山ほどある!!

俺の作品を読め!!

そして、その意味を理解しろ!!

もし、お前たちが俺の作品の意味を理解できなかったとき、大変なことになるぞ!!



「なるほど、確かに穏やかじゃありませんね」


紹介文を読み終わったあと、梶はそう呟いた。


「で、肝心の本文の意味がまったくわからない.........と、いうわけですね?」

「ええ、もう、ぐちゃぐちゃです」

「ぐちゃぐちゃ? 罵詈雑言の嵐とか、支離滅裂とか、そういうことですか?」

「いえ、そんなレベルじゃありません。ほんとうにぐちゃぐちゃに文字が羅列されてるんです!!」


編集長はそう言ってマウスを操作し、本文のページを表示させた。


かたくよたむなたなしたゅうたねんたおめたでとたうごたざいたますた。こたころたよりたおいたわいたもうたしあたげまたす。たかくたよむたは私た達にたかくたきかたいとたよむたきかたいをたていたきょたうしたてくたれるたすばたらしたいばたしょたであたり、た私をたはじためおたおくたのゆたーざたーがたとてたもかたんしたゃしたていたますた。こたれかたらもたおおたくのたひとたびとたにかたくよたろこたびとたよむたよろたこびたを与たえつたづけたて下たさいた。さたいごたにもたういたちどたもうたしあたげまたす。たかくたよむたななたしゅうたねんた、ほたんとたうにたおめたでとたうごたざいたますた。


「ね、ぐちゃぐちゃで、意味がわからないでしょ!!」


梶は口元に手をあて、文字をみながら思案した。


(これって、完全にあれだよな...........)


「すみません、さっきのページに戻してください」

「え?はい、わかりました」


編集長はマウスを操作して、作品情報のページに戻った。


(Raccoon Dog........なるほど、そういうことか.........)


「編集長、事件性はありませんので、私はこれで失礼します」

「え、どういうことですか!?」

「Raccoon Dog、日本語にすると狸ですよ」

「え?」


梶は編集長に背を向け、こう言い残して去っていった。


「“た”を抜いて読んでください」




ぐちゃぐちゃの脅迫状 完



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