第2話
能登半島地震のニュースを見て、ボランティアに行きたいと思う人はいるかと思います。
そういった人に向けて、自分が過去に経験したボランティア活動での実体験とか、考え方などを、改めて書いてみようと思います。
何年も前の話ですが、台風で川が氾濫して水害に見舞われた隣の市へボランティアへ行きました。
これが人生で初めてのボランティアでした。
その頃の自分は、東京での生活をリタイアし、療養も兼ねて地元に戻ってきてまだ仕事に就いていない、いわゆるニート状態だったので、時間は誰よりもありました。
計10回以上はボランティアに行きました。
毎日ではないです、週に1、2回。
泥の除去も、水に浸かった家財の運び出しも、汚れた家屋の清掃も、どれも当時ニートで運動不足だった自分には過酷な作業だったので、ボランティアに行くたびに身体のあちこちが痛くなり、回復に2、3日かかるという有り様でした。
就職が決まるまでの二カ月ぐらい、ボランティアセンターに通っていたと思います。
何回も参加していれば、現地のボランティアスタッフの方々にも顔を覚えられて、作業班のリーダーを任されることも何度かありました。
個人でボランティアグループのリーダーをされている方とも顔見知りになり、その方に誘われて支援の手が行き届いていない場所の支援に入ったりもしましたが、このあたりのことはまた後述で詳しく書ければと思います。
実際の支援先での状況などは第1話の方でも書いたので、今回はもっと全体的なことを書いてみようと思います。
ボランティアに行きたい!地元で暇してる人間なんてそういないんだから行かねばならない!と思った自分は、まず始めに地元の「社会福祉協議会」に向かいました。
ボランティア保険、というものに加入しないといけないのです。
作業中にケガなどをしてしまった場合の保険ですね。
これは必須と言われました。
保険料は何百円とかだったと思います。
ボランティア保険に加入した後は、被災地のボランティア受付状況を確認します。
これはネットで「被災地ボランティア」と検索すれば、でてきます。
検索結果は、「政府広報オンライン」と「全社協 被災地支援・災害ボランティア情報」というものが上位二つになると思います。
この「全社協」とあるのが、「社会福祉協議会」と呼ばれるもので、各自治体に存在し、被災時にボランティアセンターを開設・運営する組織にあたるのだと思います。各地のボランティアの受付状況などはここから確認できます。
あと「政府広報オンライン」も必読です。
これをちゃんと読まないと、ただボランティアをしたいだけの迷惑な人になりかねないので、必ず、しっかりと読むようにしてください。
これは本当に個人的な考えなのですが、ボランティアに行く、というのは気持ちだけでできるものではないと思っています。
もちろん、誰かを助けたい、という気持ちは一番必要なものだと思うのですが、体一つにその気持ちだけを詰め込んで我先にボランティアとして馳せ参じても、できることは少なかったりします。
例えば、水害ボランティアの場合、泥の撤去がどこの現場でもついて回りますが、その泥を撤去する道具はどうしますか?
まず必要なのは、スコップ(シャベル)です。
そして、泥を回収する土嚢袋。
庭先などであればスコップだけでも作業できますが、床下などから泥を搔き出す場合には「くわ」も必要です。泥を撤去したあとには洗浄が必要になり、高圧洗浄機なども必要になってきます。
これら全てを持参するということも不可能ではありませんが(実際に軽トラに全て積み込んでボランティアに駆け回っている方もいました)、個人で用意するのは難しい場合もあります。
田舎で田んぼに囲まれて暮らしている自分なんかは、家にスコップは何本もあるし、ネコもくわもあります。親戚から軽トラを借りて、それらを全部詰め込んでボランティアに向かうということもできます(実際は自家用車にスコップだけ詰めて行きました)が、東京で一人暮らしをしていた頃の自分で考えると、そもそもスコップなんて持っていなかったし、移動手段も公共交通機関を使うしかなく、スコップ一つ持参するのも一苦労だったと思います。
そういった、ボランティア活動に必要な道具がある程度揃えられていて、遠方からでも、体一つでも、参加されるボランティアの方々を受け入れることができるのが、被災地に開設されるボランティアセンターになります。
ようするに、このボランティアセンターが開設されるまでは、道具も体制も整っていないのでボランティアに来られても困ってしまう!、ということになるのだと思います。
また、開設されたあとも、県内在住のボランティアのみ受け付けなど、限定的な活動に留まる場合もあるため、ボランティアに行きたい人は、現地の状況を必ずボランティアセンターのHPで確認するようにしてください。
災害時のボランティアには、道具だけではなく、自身を守る装備も必要です。
この装備が、個人で参加する場合には一番重要になってくると思います。
泥の除去作業について、ニュースなどを見ていても単純に「泥」と言っている場合がほとんどですが、実際は汚水などが混ざった極めて不衛生な「汚泥」であり、その中にどんな危険が隠れているかわからない「危険物」でもあります。
素手で触れることはもちろんNG、万が一、目や口に入ってしまった場合などは、感染症を起こすなどの危険性もあります。
なので、自身を守る道具も必要になります。
長靴(踏み抜き防止は必須)、厚手のゴム手袋と二重で装備するための使い捨てのビニール手袋(替えもあったほうがいい)、ゴーグル(メガネでもいいけど万全を期すならゴーグル)、マスク(汚れるので複数枚)、肌の露出がない服装など。
作業後は全身が汚れるので、余裕がある人は行き来を考えて(これは自家用車でも公共交通機関でも)着替えがあるとよりよいかと思います。
個人の装備に関しては、前述の「政府広報オンライン」にすべて書いてあるので、それを参考にしながら、被災地の状況に合わせて用意しましょう。
ちなみに自分が初日に持っていった軍手は「水害」の被災地において、直ぐに濡れてしまいくそほどの役にも立ちませんでした。
建物が倒壊するといった状況でもなかったので、ヘルメットをかぶっている人もいませんでした(汚れるのでタオルを巻いたり、帽子を被ったりしている人がほとんどです)
作業は朝から夕方ぐらいまでなので当然お昼ご飯の休憩時間がありますが、その際に必ず手を洗える状況だとは思わない方がいいです。
ウエットティッシュは必須です。
手洗い用の水を二リットルのペットボトルに入れて、車に積んで参加されている方もいたぐらいです。
断水はしていなかったので家屋の外の蛇口などは使わせてもらえる場所もあったのですが、家屋周辺は泥がまだ残っていたり、乾き始めたところに、手を洗うために水を撒いてしまうという状況にもなってしまうこともあったので、「迷惑をかけないための装備」も万全にしましょう。
①支援先に迷惑をかけない
②世話にならない
③不快にさせない
この三つを心掛けて、自分はボランティア活動を行っていました。
作業中のトイレは……自分はしなかったような気がします(記憶にない
まだ暑さの残る時期だったので飲み物は飲んでいたのですが、全部汗で出てしまったような感じです。
支援先でトイレを借りられる場所もあったような気がしますが、近くのコンビニやスーパーで借りるとか、我満できなくなったらボランティアセンターに一回戻るとか、そんな感じだったと思います(すいません、ほんとにトイレ事情は記憶にない
ボランティアセンターに行くと、まず受付を行います。名前を書いたり、住所を書いたり、ボランティア保険に加入済みか否か、そのぐらいだったと思います。
このときにビブスを渡されます。自分はボランティアとして活動中です!と証明するためにも、必ず着用しましょう。
その後に班分けを行います。
支援先の作業内容によって、男手が必要なのか、女性でも可能なのか、考慮された上で班分けが行われました。
もちろん、お一人様での参加でも問題なしです。自分はずっとお一人様参加だったので。
「ぼっちで肩身が狭い…」なんて気にしている人はいませんし、むしろ一人で参加している方が人数調整の際に融通が利くので、重宝されます。
班と支援先が決まったら、必要な道具をボランティアセンターから借ります。
スコップなどを持参している人もいましたが、そういう人の方がむしろ少数なので、ほとんどの人は道具を借りていきます。
借りた道具は班ごとに個数をチェックしているので、作業後は現場からしっかりと持ち帰って返却しないといけません。次の日も、また次の日も、何日も何日もずっと使われる道具なので、借りて作業に赴く場合はちゃんと管理しないといけませんでした。
自分がボランティアをしていた期間は、ゴム手袋などの装備であれば支給してもらえましたが、これは物資が潤沢にあったからできたことだと思うので、原則は持参するべきものだと思います。
班分けを行い、道具を借り、装備を整えたあとは、班ごとに支援先へと向かいます。
支援先へは、自家用車に乗り合いで向かいました。
支援先周辺の地図はもらえるのですが、それだけではわからない場合が多いので、ナビを使ったり、スマホで調べたり、地元の方がボランティアで参加していれば、道を案内してくる場合などもあります。
あと、これはもっと先に書いておくべきだったのですが、集合場所となるボランティアセンターに駐車場があるのかも確認した方がいいと思います。集合時間もありますので、遅れないようにしましょう。
自分が参加していたボランティアセンターは近くに公共施設があったり学校があったりと駐車場として借りられる場所が多かったので自家用車で行くことができましたが、場所によってはそれが難しい場合もあるのかもしれません。
支援先についたら、家主の方に挨拶をして、作業場所を確認して、作業に取り掛かります。
作業内容は事前にボランティアセンターから指示を受けているので、原則はそれに従って作業を行いますが、家主の方とコミュニケーションを取りながら、作業を進める上で不明なことがあれば、一つ一つ確認しながら作業を行います。
すぐ近くだからといって、支援先のお隣の家をちょっと手伝う、というのはNGとされています(自分は初日にやってしまいましたが)
ボランティアが支援先に向かう順番は、ボランティアセンターで決めているので、あちこちでボランティアの順番待ち状態になっている被災者に対して、勝手に支援することは「不公平を招く」とされているのだと思います。
支援するにあたって、この「公平性を保つ」というのは、色々と難しい部分があるということを、より痛感したのが、自分がボランティアセンターを介さずに支援に入った場所での活動になります。
最初の方に書いた、「個人でボランティアグループのリーダーをしている方」に声を掛けられて、その方の知人宅での床下の泥の除去と洗浄を手伝った日がありました。
このリーダーさんには、自分が担当した支援先の難易度が高過ぎて(第1話で書いた場所)、応援に来てもらってめちゃくちゃ助けてもらったという恩があったので、二つ返事で手伝いを了承したという経緯があります。
リーダーさんは単独でボランティアセンター並みの道具と装備を持っているので、普段よりも少人数での作業でしたが、何不自由なく、円滑に作業を進めることができました。
目標としていた作業が予定よりも早く終わって、清掃や片付けといった細々とした作業をしていたときでした。
隣の家から、人が出てきました。
「いつまで待っても、ボランティアが来てくれない」
と言われました。
その日、ボランティアセンターを介さずに活動していたのは、「知人宅がボランティアが来なくて困っているから」という理由でした。
その日は、ボランティアの証でもある、ビブスを着ていませんでした。
でも、僕個人としては、ボランティアでした。
リーダーさんは知り合いだから、優先して支援していたのです。
これはこれで、決して悪いことだとは思いません。
自分も、もし知り合いが被災していたら、単独で手伝いに行っていたと思います。
でも実際に、面と向かって、「いつまで待っても来てくれない」と言われて、自分は何も言えなくなってしまいました。
そのときはリーダーさんが「知り合いの手伝いに来てるだけだから」「ボランティアは必ず来てくれるから」というようなことを話して納得してもらっていましたが、自分にとっては支援の難しさを痛感する出来事でした。
いますぐ困っている人を助けたい、という気持ちの人はたくさんいると思います。
でもそうやって行動した結果が、全ての人を救えるわけではないし、全ての人に喜ばれるわけではないということも、知っておいて欲しいと思います。
「それでも──」と言われたら、自分はもう何も言えませんし、否定も肯定もできません。
石川県は遠いです。
自分がボランティアに行くことはないと思います。
何か別の形で支援をしていきたいと考えたとき、災害ボランティアの経験を書くこともまたその在り方なのかなと思い、いまこうして拙い文章を書くに至りました。
一日も早く平穏が訪れることを祈っています。
水害ボランティア 東雲そわ @sowa3sisu
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