初めての料理

佐倉伸哉

本編

 今日は、5歳になる息子と初めての料理。

「ねぇ! 今日は何作るの!?」

 朝からずっとこんな調子で、テンションはかなり高め。相当楽しみらしい。

 本当は十時くらいから始める予定だったけど、このままだとやる気も落ちてしまいそうなので、三十分早めることにした。

「じゃあ、まずは手を洗ってね」

「はーい」

 息子は踏み台を持って来て、流しで手を洗う。水で流した後にタオルで拭いてあげてから、私も手を洗う。

 次に、冷蔵庫から今日使う食材を取り出す。

 キャベツ一玉、玉子、豚バラ。それと、買い置きしてある“魔法の粉”。

「じゃあ、まずはキャベツを千切りにしまーす」

 そう言って引き出しから取り出したのは、スライサー。安全性と便利さをかんがみて、便利グッズに頼ることにした。

 私がキャベツを上から包丁を入れて四分の一にカット。固い芯の部分を取り除き、準備完了。まずは私がお手本として実演。

「『持ちにくいなぁ』って思ったらストップ。残りは私が包丁でやるから。分かった?」

「分かった!」

 元気よく返事した息子は、キャベツの固まりを滑らせていく。何回か往復させていくと下の容器に千切り状のキャベツが溜まっていくのが分かった息子は、楽しそうに作業を続ける。

 持ち手部分が少なくなったキャベツは、私が包丁で千切りにしていく。

「次は、豚バラをこのくらいのサイズで切ってくれる?」

 容器に入っている薄くスライスされた豚バラをまな板の上に載せ、包丁で二センチから三センチくらいの大きさに切っていく。

 実演を見せてから、プラスチック製の子ども用包丁を渡し、いざチャレンジ。最初はギュッと力を入れて切っていたけど、何回かやる内に“そんなに力入れなくていいんだ”と分かった様子。大きさはバラバラだったり斜めになっているけど、それはご愛敬あいきょう

 今度は大きなボウルを取り出して、そこへ千切りキャベツと切った豚バラを投入。

「玉子はね、平たいところでコンコンとしてヒビを入れるの。それから、両方を持って、割る」

 最初の一個は私が息子の手を取って、力の入れ具合や感触を体験させる。やり方を実演した後は、もう一個の玉子は息子にお任せ。割る時にちょっと強く握り過ぎたせいで殻が入ってしまい息子はシュンとしたけど、「取り除けばいいから大丈夫」とフォローする。失敗しても構わない、やる事に意義があるのだから。

 あとは“魔法の粉”だけ。計量カップに入れる作業を息子は「やりたい!」と立候補してきたので、お任せする。勢い余ってこぼれたけど、これも想定の範囲内。初めてなのだから勝手が分からなくて当たり前。これを叱ったら料理に対して苦手意識コンプレックスを持ってしまう。

 食材を入れ終わったので、あとは……。

「では、今から混ぜていきまーす」

 取り出したのは、泡立て器ホイッパー。それを息子に手渡して、グルグルと円を描くように混ぜてもらう。

 ちょっと握りにくそうにしていた息子だが、かき混ぜていく内にボウルの中でぐちゃぐちゃと音を立てて材料が混ざっていく様子を見ている内に楽しくなってきたみたい。回転するスピードも上がってきてボウルの外にちょっと溢れたけど気にし過ぎない。ふざけ始めたら流石に注意するけど。

 ぐちゃぐちゃした音がだんだんと収まり、ドロリと粘りが出て一つにまとまる。最後の仕上げは私がやり、これで下準備は全て完了した。


 生地が出来たので、調理に入る。

 ホットプレートをテーブルの上に設置し、スイッチON。プレートが十分に温まったら、お玉一すくい分の生地を入れる。形を軽く整えてから、暫く焼いていく。息子は焼けていく様子をじっと見つめている。

 三分くらい経ってから生地の固まり具合を確認し、大丈夫そうと思った私は息子に声を掛けた。

「引っくり返してみる?」

「やる!」

 すぐに即答する息子。フライ返しを二つ持ってきて、固まってきた生地の下に差し込む。私が息子の両手を持ち、フライ返しを握らせる。

「じゃあ、いくよ。一、二の……三!」

 三のタイミングでクルッと引っくり返す。生地は崩れることなく半回転し、焼き目が上に出る。上手くいって良かった。失敗してもいいとは言え、成功体験を多くさせてあげたい気持ちはある。

 それから中まで火を通すために、蓋をして三分。蓋を取って、水分を少し飛ばしたら――。

「はーい、かんせーい!」

 お皿に移して、ソースを塗って、アクセントにマヨネーズをかけて。これで完成。

 出来上がったのは……お好み焼き。

 息子は初めて自分の手で作った料理に大興奮。手を叩いて大喜びしている。

「いただきまーす!」

 箸で一口サイズに切って、パクリ。

「美味しい?」

「うん!!」

 満面の笑みでこたえる息子。いつもは「お野菜イヤー」と嫌がって食べたがらないが、今日は自分で作ったのもあってパクパクと食べていく。

 初めての料理、良い思い出になって良かった。私は心の底からそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初めての料理 佐倉伸哉 @fourrami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ