彼と彼女の歪な出会い

横蛍

彼と彼女の歪な出会い

 唐突に掛かってきた電話は、面倒事の予感がした。合コンのメンバーが急遽来られなくなったので、代わりに来てほしいというもの。


 相手が友人であることに変わりはない。とはいえ、趣味嗜好から生き方も違う。オレはそういう場があまり好きではない。


 モテないからそんな強がるんだと言われたこともあるが、知らない女の機嫌を取ってまで一緒にいたくない。社交性がないだけだ。


 結局、ただ飯、ただ酒でいいという条件で行くことにしたが。


「こいつ○○大なんだ。凄いだろ」


 また経歴を偽っての合コンか。女性陣も有名女子大らしい。すぐにボロが出て失敗するのに友人たちは凝りないな。


 容姿は結構いい。ただし、ひとりだけ場違いな女がいる。ぽっちゃり丸顔で野暮ったい服、ボサボサの髪をした女だ。人数合わせか。雰囲気からそう察した。


 友人たちはアイコンタクトで狙う女を決めたようで、盛り上げてアプローチするように騒いでいく。当然、その女は放置だ。まあ、女もあまり関わってほしくないオーラを出しているので、仕方ない部分もあるが。


 オレは場の雰囲気を悪くしない程度に会話に参加しつつ、ただ飯とただ酒を頂く。決して裕福でない友人たちの合コンだ。店もほどほどだが、普段の生活からするとお高い店になるので料理は美味い。


「食べ方が綺麗だね」


 人数合わせでたまに合コンに参加する身としては、楽しみは人間観察だ。服装から化粧、立ち居振る舞いに至るまで女性の見た目から中身を想像するのを楽しむ。


 友人たちには趣味が悪いと言われるが。


 ふと気づいたのは、一部の隙もないような食べ方をしている女だ。野暮ったい服とボサボサの髪からは想像も出来ない仕草が妙に気になった。


「ああ、その子、実家が煩くてね」


 なんだ? 私には興味もなさげな女性陣が一斉にこちらを向いた。触れてはいけないことだったのか?


 前髪に隠れている女と目が合う。その瞳は見たこともないほど澄んでいるように見えた。


 ただ、友人たちは女性陣の異変に気付かないようですぐに場の雰囲気が戻り、そのまま合コンは可もなく不可もなく終わることになる。


 一応、連絡先を交換したものの当然ながらお持ち帰りした者はおらず、次はないだろうなというところか。




「また?」


「頼むよ。この前と同じメンバーでって話なんだ」


 珍しくオレの予想が外れた。次がないと思っていた合コンに続きの誘いがあったらしい。


 まあ、三流大学でそれだけを楽しみにしているような友人だ。数時間付き合うくらいはかまわないかと了承する。


 だが、合コンに行くと今回は空気が変わっていた。


「はじめまして。沢渡奈々です」


 野暮ったい服の女の代わりに違う女がいた。元々は彼女が来る予定だったが急遽来られなくなったらしい。


 他の女性陣とは明らかに違う。そこらの芸能人が霞むほど美人だ。容姿は当然ながら、透明感ある肌と立ち居振る舞いからして、すべてが違う。


 ただ、彼女の瞳を見た時、なにか違和感があった。


 とはいえそれを考える間もなく、あからさまに目の色が変わる友人たちに、女性陣が少しムッとしたのが分かる。今度はこっちのフォローをしろってことかね。


 今回の店は、先日よりさらに高い店だ。友人たちのお財布事情が心配になる。


 合コンの雰囲気はお世辞にもいいとは言えない。


 ひとりの女に群がる男たち。明らかに前回と違う扱いにどこか冷めた目をしつつも、何故か場を壊そうとしない女性陣。


 これ、ドッキリかなんかかと疑いたくなるほどの違和感がある。




 違和感が確信に変わったのは、先日いなかった沢渡という女。彼女が食事をする姿を見た時だった。


 同じなんだ。前回いた野暮ったい服を着た女と。


 顔と髪が違うので絶対とは言い切れないが、食べ方や何気ない仕草から同じ人間にしか見えない。


 顔は明らかに違う。特殊メイクか? あの時の女の顔をそこまで見てないからこちらは確信を持てない。


 ただ、瞳は同じなんだ。最初に彼女の瞳を見た時の違和感がそこにあった。


 にこやかで楽しげにしつつも、自身に向ける男たちの熱意も、少し冷めた様子で見ている友人たちの様子も、承知しているのかしていないのかすら分からない。これほど中身を推測しにくい人は久々だ。


 正直、あまり関わり合いになりたくない。そんな女。


 結局、今回の合コンは一度目よりも微妙なまま終わる。単純な友人たちは有頂天になって喜んでいるが。


『今日はありがとうございました。良かったらまたご一緒しましょう』


 女性陣と別れてしばらくすると、沢渡という女からメッセージが届く。


『次はないだろうけど一言だけ言わせてもらう。容姿を変えて合コンに来るのはいいけど、あんまりやりすぎないでほしい。友人たちは単純だし馬鹿だけど悪気はない。笑い者にするなら他を当たってくれ』


 彼女の目的が分からないが、あまりいい予感はしない。どうせ住む世界が違う人間だ。そう思うと、普段ならば決して言わない一言を送ってしまった。




「悪い。オレもうあの子たちとは会いたくない」


「馬鹿野郎! 今回は向こうが招待してくれたんだぞ。お前が来ないと行けないだろうが!」


 あるはずのない三回目。あの女はとことん友人たちを馬鹿にする気か? 珍しく怒りが込み上げてくる。


「あのさ。あの子たちさ……」


「いいから来い。絶対だからな!」


 もうぐちゃぐちゃだなぁ。出来れば人前で暴露するような真似をしたくないだが。


 ただ、これ以上、笑いものにされるのを見捨てるのも出来ない。


 はっきりさせるしかないか。






「大丈夫。あいつも来るって」


「そう、良かった。奈々がね、彼を気に入ったみたいで。いろいろとごめんね。埋め合わせはするから」


「いや、気にしないでいいですって。しかし、なんであいつなんか……」


「見抜かれたのは何度かあるんだけどね。こっそりとそれを伝えて、駄目だしされたのは初めてだから」





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