人体の素を混ぜる俺

平本りこ

人体の素を混ぜる俺

 人体が何で出来ているか知っているか。俺はよく知っている。かれこれもう十年以上、この仕事をしているのだから。


 来る日も来る日も、俺は人体のもとをぐちゃぐちゃに混ぜ続ける。


 手に馴染んだ器具は、禍々しいほどの銀色だ。人体に関する物だから清潔にせねばならぬので、作業室は常に消毒されて、強い塩素の臭いが鼻につく。


 俺は今、人体の素を混ぜている。器具の中は、植物から選別した極彩色の混沌で満たされている。


 全色の塗料を混ぜると黒になるが、全色の光を混ぜると白になるという。しかしこの混沌には、白も黒もない。人体には似つかわしくない色だから。


 俺は人体の素を混ぜている。作業が後半に差し掛る頃、混沌に肉片を投げ込んだ。


 鳥類の肉が適している。同業者の中には臓腑を混ぜる奴もいるが、俺の趣味ではない。


 人体の素が均等に混ざり切る。その間おおよそ一分ほどか。


 俺は、真っ赤な液体で満たされた筒を手に取った。人間の身体を満たす、血液の色。吸血鬼ヴァンパイアが目にしたならば、垂涎すいぜんしつつ惹き寄せられるだろう。


 筒を傾け、鮮やかな赤を投入すれば、芳しい匂いが塩素と混ざり合う。器具の中、混沌は紅に染まる。


 人間の身体の六割ほどが水分で出来ているというのだが、さすがに六割も投入するのはやり過ぎだ。


 なぜだって? それは。


 塩味が強すぎるからだ。











🥦🥕🍅🍗



「きゃー嬉しい。今日はホムンクルスおじさんがいる!」

「本当だー! 初めて会った!」


 ガラス窓の向こう側で、若い女性がはしゃいでいる。その視線の先にいるのは、もちろん俺。


 そう、俺の名は皿田さらだつくる。通称『ホムンクルスおじさん』。独特の言葉選びで実況しつつサラダを混ぜる男。SNSでバズってから、このサラダ屋の売上は絶好調。


 これは運命。なにせ俺は、この世に生まれ落ちた瞬間に、サラダ屋で汗水垂らすことが宿命づけられたかのような名を贈られた男。


 俺の名は、皿田創。来る日も来る日もサラダを混ぜる。


 さあ、お待ちどう。これが俺が心血を注いで混ぜた『鮮やか緑黄色野菜と鶏肉のトマトドレッシングサラダ』だ。栄養満点。美味しく食べてくれ。


 ……そうそう。君は、人体が何で出来ているか知っているか。俺はよく知っている。


 人体は、食べた物で出来上がるのだ。


 let's eat vegetables!




 🥗special thanks いつものサラダ屋さん🥗


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人体の素を混ぜる俺 平本りこ @hiraruko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ