ぐちゃぐちゃなぬかるみの先はぐちゃぐちゃした沼でした

舞波風季 まいなみふうき

ぬかるみの先は…

 いわゆる異世界転移というものを私もしてしまったみたいだ。


 私は高校一年生の女子。

 その日は朝から大雨が降って校庭はぬかるみだらけになっていた。

 帰宅部の私は授業が終わるとさっさと帰るのを日課にしている。

 さっさと帰って大好きな漫画とアニメに浸るのだ。


 と、そんなことを上の空で考えながら校庭を横切っていたら、うっかり、というか私的には珍しくもないのだけれど、ぐちゃぐちゃなぬかるみで転んでしまった。


 そうしたらどういうわけかそのままズブズブとぬかるみの底へ向かって沈んでしまって、一瞬真っ暗闇の中にいたと思ったら今はここ、周囲を木々に囲まれた沼に腰まで浸かった状態で立っている。


「なになに?一体どういうこと?」

 ぐるりと周囲を見ても全く見覚えがない場所だ。


 しかも、ぐちゃぐちゃなぬかるみをくぐってきて、今また底がぐちゃぐちゃしている沼に突っ立っているのである。

 すこぶる気持ちが悪い。


 沼の水で頭や体を洗おうかと思ったが水は緑色であまりいい匂いがしない。こんな水で頭を洗うのは御免こうむりたい。


「とりあえずは沼から出なきゃね」

 周りは鬱蒼とした森だ。探せばもしかしたら泉があるかもしれない。


 沼の底は足がズブズブと沈みやすくてあるき辛いがゆっくりと足を上げ下げすればなんとかなりそうだ。


 やっとのことで岸に辿り着き沼から出るとそれとなく道のようになっているところを選んで森の奥へと進んでいった。

 もちろん、靴の中は泥でぐちゃぐちゃで気持ち悪く、歩く度に嫌な音がした。


 何時間くらい歩いただろうか、しばらくして木々に丸く囲まれた空き地をみつけた。


「やっと一息ひといきつけそうね」

 そう言いながら空き地に入っていくと奥の方に水溜まりがあった。


「あっ、もしかして!」

 さっと駆け寄ってかがみ込み、ぷくぷくと水が湧き出ている水たまりに口をつけてみた。


「うん、大丈夫、飲める!」

 私はごくごくと音をたてて泉の水を飲んだ。


「ぷはぁ~美味い!」

 と女子高校生にふさわしくない声を出してしまった。


「んじゃ、頭と体を洗うか。バッグも一緒で良かった。タオルもジャージもあるし〜少し濡れちゃってるけど〜♪」


 冷静に考えれば一大事なのだが、不思議と私はこの状況を楽しんでいた。


 体を洗おうと制服を脱ごうとしていたら、泉の反対側に羽が生えた人形が浮いているのに気がついた。


「え?人形が浮いてる?」

 服を脱ぐ手を止めて私はその人形を凝視した。


「人形ではありません」

 なんと空飛ぶ人形が喋ったのだ。


「うひゃぁ〜!」

 と、またもや女子高校生らしからぬ叫び声を上げてしまった私。


「私はこの森のニンフです」

 空飛ぶ人形、もといニンフさんが答えた。


「あの…あなたは…」

 ニンフさんはなにやらもじもじしながら私に何かを聞こうとしている。


「?!?!」

 脳内がはてなマークとびっくりマークだらけの私はニンフさんをじっと見つめるしかできない。


「あの、あなたは魔女さんですか?」

 というニンフさんの問いに、

「はいぃ〜?」

 と、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


 あれからどれくらいの月日が流れただろう。私はこの世界に来たときのことを思い出していた。


 ぐちゃぐちゃなぬかるみにはまって、いつの間にか腐った水のぐちゃぐちゃした沼に突っ立っていたあの日。


 今は周囲の村の人々とも親交を深めて楽しく暮らしている。


 もちろんニンフさんたちとも楽しくやっている。


 沼を浄化した魔女さんとして。

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ぐちゃぐちゃなぬかるみの先はぐちゃぐちゃした沼でした 舞波風季 まいなみふうき @ma_fu-ki

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