宗教改革真っ只中、悪魔の見える職人の、修行の旅はいかがなる?

時は十と六世紀
グーテンベルグの偉業をもって
一世風靡のマルティン・ルター
地元の言葉で読みやすい
聖書を広めて西東
それまで娯楽も知らなんだ
農民たちでも手に取れる

「他にゃあ読めるもンも無し
タダなら構うこともねェ
こいつを一丁読んでみよう
ちったあ賢く見えんだろ」

あれよあれよと野火のよう
新旧問わずに広まって
猫も杓子もキリスト教
宗教改革吹き荒れて
千年続いた中世も
終わりを告げるこの時代

そんな舞台を背景に
ぴょこりと現るこの話
ところ獨逸は伯林を
北に見上げる法螺吹き街

あなたこなたに古くから
宿る精霊 守り神
時の流れか浮世の沙汰か
悪魔だ何だと石持て追われ
逃げ道塞がれ打つ手なし
在りようまでをも歪められ
影に隠れておりました

「昔ゃ神だと持ち上げて
楽しく遊んでくれたのに」

“おいらは居るぞ ここに居る!“

印刷工房その隅で
ガタガタ ギシギシ 小刻みに
家鳴りとなっておりました


ここに一人の植字工
下積生活三年目
そろそろ親方縄張りの
街を出なけりゃなりませぬ

「やれやれ明日から修行の旅だ
三十マイルは離れなきゃ
職人身分も無くしちまう」

風呂敷包みと杖持って
青の上下を身にまとい
シェンクの恩恵あればこそ
その身一つで旅立てる
少なくもっても 三年と一日
さてさてどの街目指そうか
いつかは夢のマイスター
などと嘯くこともなく
遍歴計画立ててたら

「やめてやめてよ 行かないで
行っちゃ嫌だよ 淋しいよう」

ガタガタ ピシピシ 泣きわめく
小悪魔家鳴りの柱小僧
印刷工房その中で
柱も活字もステッキも
ぐちゃぐちゃ悪魔のおもちゃ箱

これでは仕事になりゃせんと
こちらを見やる兄弟子の
目は口ほどに物を言い
旅の出足を挫いてくれる

「小さい頃からウチに居て
憎めぬ奴ではあるものの
ここは思案のしどころだ」

自分もキリスト教徒だが
昔馴染みじゃ捨ておけぬ
それでも見つかりゃお終いだ
異端とされたら敵わない
はてさてどうしてくれようか


己の手仕事たずさえて
知恵を絞ったこの一計
吉か凶かを知りたけりゃ
どうぞその目で読まれませ
凶と出たならその時は

ちちんぷいぷい ごよのおたから
とっぴんぱらりの ぷう